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レイラ
猛女アイギナ
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エギナは言う。
「私は、生まれた時にはもう、相手を射殺そうとするかのような強い目をしていたそうだ。だから、<猛女アイギナ>の名を借り、<エギナ>と名付けたそうだ」
それを聞きながらレイラは思う。
『<猛女アイギナ>? 冥界の審判官とされる<アイアコス>の母親、<アイギーナ>のことでしょうか? 私の知るギリシア神話においては、<アイギーナ>については<猛女>と評されるような具体的なエピソードはなかったように記憶していますが、その辺りにも食い違いがあるのかもしれませんね』
と。言語などを考えれば地球のそれに似通っているものの明らかな違いもあり、これもそういう差異の一つかもしれない。
などと思いつつもレイラはエギナの言葉に耳を傾けた。
「そして、私は、<猛女アイギナ>の名を受けるに相応しい猛々しい気性の子供だった。強そうな相手と見れば誰彼かまわず挑みかかり、大人達の手を煩わせたと聞く。
そんな私を、臣下達は、<この国に災いをもたらす者>として処刑することを父に進言したそうだが、父は、『確かに国を率いる者としては暴虐に過ぎるかもしれないが、この力はいずれこの国の役に立つ』として、私を、最も信頼できる臣下の一人であるバルシア侯の養子として王家から切り離し、命を救ってくださった。
私は、父の恩に報いたいのだ! そのためならば命など惜しくない! お前と共に魔王を討ち倒し、この国を救う勇者、英雄となる!」
語っているうちにまた昂ってきたのか力が熱弁を振るうエギナを、レイラはあくまで柔和な表情で見守る。
その上で、
「エギナ様の<想い>、しかと聞き届けさせていただきました。なればこそ、陛下のご恩に報いるために万全を期すべきと私は愚考いたします」
改めて丁寧に頭を下げる。
するとエギナも、
「お…おう、そうか……そうだな……魔王を討ち倒すのが我らの役目だからな……」
どうにか落ち着いたらしく、声量を下げてそう応えた。
こうしてエギナをなだめると、レイラは次に、シェイナに向き直り、
「難しいお話は退屈でしたでしょう。そこで、シェイナには、ここでニューティから針仕事を教わってはいかがでしょう? ニューティと共に、私の外套を作っていただきたいのです」
やはり穏やかにそう提案した。
「……レイラ様のために、ですか……?」
呟くように問い返すシェイナに、
「はい。シェイナにお願いしたいのです」
満面の笑顔で応える。きらりと光を反射するプラチナブロンドの髪とも合わせて、神々しいまでの美しさだった。
するとシェイナの顔がぱあっと桜色に染まり、
「わ、分かりました…! 頑張ります!」
自身の胸の前で小さな拳を握り締め、力強く応えたのだった。
「私は、生まれた時にはもう、相手を射殺そうとするかのような強い目をしていたそうだ。だから、<猛女アイギナ>の名を借り、<エギナ>と名付けたそうだ」
それを聞きながらレイラは思う。
『<猛女アイギナ>? 冥界の審判官とされる<アイアコス>の母親、<アイギーナ>のことでしょうか? 私の知るギリシア神話においては、<アイギーナ>については<猛女>と評されるような具体的なエピソードはなかったように記憶していますが、その辺りにも食い違いがあるのかもしれませんね』
と。言語などを考えれば地球のそれに似通っているものの明らかな違いもあり、これもそういう差異の一つかもしれない。
などと思いつつもレイラはエギナの言葉に耳を傾けた。
「そして、私は、<猛女アイギナ>の名を受けるに相応しい猛々しい気性の子供だった。強そうな相手と見れば誰彼かまわず挑みかかり、大人達の手を煩わせたと聞く。
そんな私を、臣下達は、<この国に災いをもたらす者>として処刑することを父に進言したそうだが、父は、『確かに国を率いる者としては暴虐に過ぎるかもしれないが、この力はいずれこの国の役に立つ』として、私を、最も信頼できる臣下の一人であるバルシア侯の養子として王家から切り離し、命を救ってくださった。
私は、父の恩に報いたいのだ! そのためならば命など惜しくない! お前と共に魔王を討ち倒し、この国を救う勇者、英雄となる!」
語っているうちにまた昂ってきたのか力が熱弁を振るうエギナを、レイラはあくまで柔和な表情で見守る。
その上で、
「エギナ様の<想い>、しかと聞き届けさせていただきました。なればこそ、陛下のご恩に報いるために万全を期すべきと私は愚考いたします」
改めて丁寧に頭を下げる。
するとエギナも、
「お…おう、そうか……そうだな……魔王を討ち倒すのが我らの役目だからな……」
どうにか落ち着いたらしく、声量を下げてそう応えた。
こうしてエギナをなだめると、レイラは次に、シェイナに向き直り、
「難しいお話は退屈でしたでしょう。そこで、シェイナには、ここでニューティから針仕事を教わってはいかがでしょう? ニューティと共に、私の外套を作っていただきたいのです」
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「……レイラ様のために、ですか……?」
呟くように問い返すシェイナに、
「はい。シェイナにお願いしたいのです」
満面の笑顔で応える。きらりと光を反射するプラチナブロンドの髪とも合わせて、神々しいまでの美しさだった。
するとシェイナの顔がぱあっと桜色に染まり、
「わ、分かりました…! 頑張ります!」
自身の胸の前で小さな拳を握り締め、力強く応えたのだった。
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