44 / 108
レイラ
必要なこと
しおりを挟む
「……!」
顔を上げたニューティは、レイラの慈愛に満ちた視線に、涙が止まらなくなった。
「申し訳ございません……!」
慌てて詫びるも、自分でも抑えることができない。
「いえ、お気になさらずに。今は泣いていただいて構いません」
レイラの気遣いに、ニューティは自分の手で顔を覆い、肩を震わせて泣いた。それまで感情を、抑えに抑えてきたのだろう。
けれど、
「ちょっと、ニューティ……!」
この時の彼女の態度が礼を失したものにしか見えないパティリエカがニューティを叱ろうと声を上げたのを、
「……」
レイラが手をかざして制した。その上で、
「構いません。このままで。これは必要なことなのです」
穏やかに告げる。大切な者を理不尽な形で喪った人間がどうなるか、ロボットであるがゆえに膨大な実例のデータを引き継ぐことができているがゆえに。
こうして十分ほど泣いた後、
「申し訳ございません。お見苦しいところをお見せしてしまいました……」
ニューティが詫びつつ涙を拭って顔を上げた。すっかり化粧が崩れた上に泣き腫らしたひどいそれだったが、感情を吐き出したことでいくらか落ち着いたのが分かる柔和なそれにもなっていることを、レイラは確認、
「では改めて、貴女の仕事についてお知らせします」
と、シェイナと引き合わせた。
「貴女にお願いしたい主な仕事は、私が留守の間、このシェイナの傍にいていただくことです。特に夜の間ですね。加えて、家事全般。ゆえに、私の邸宅に住み込みという形になるでしょう。これはすでにパティリエカ様からも承諾いただいております」
「パティリエカ様……」
ニューティが視線を向けると、
「そういうことよ。今日からあなたは、このレイラ様にお仕えするの。ただし、これ以上さっきみたいな無様な姿を晒すのはナシ。あなたを紹介した私の顔に泥を塗るような真似は許さないから……!」
パティリエカがきっぱりと告げた。
「はい、承知いたしました」
改まって姿勢を正し深々と頭を下げるニューティを、シェイナは困惑した様子で見ていた。そんなシェイナに、レイラは、
「大丈夫ですよ。彼女には私のお手伝いをしていただくだけです。あなたを彼女に預けてしまったりはしません」
不安を見抜き、声を掛けた。
「あ…はい、分かりました……」
レイラの言葉にシェイナもホッとした様子で、空気が和む。
しかしそこに、
「レイラ様、お時間です。お部屋にお戻りください」
軍議の再開を兵士が告げに来る。
「はい、今、参ります」
表情を引き締め凛々しいそれになったレイラが、
「それでは、ニューティ。針仕事はできますか?」
問い掛けると、ニューティは「はい」と応えた。
「では、この部屋で待機していただく間に、私のための外套を一着、しつらえてください。それであなたの技量を測らせていただきます」
顔を上げたニューティは、レイラの慈愛に満ちた視線に、涙が止まらなくなった。
「申し訳ございません……!」
慌てて詫びるも、自分でも抑えることができない。
「いえ、お気になさらずに。今は泣いていただいて構いません」
レイラの気遣いに、ニューティは自分の手で顔を覆い、肩を震わせて泣いた。それまで感情を、抑えに抑えてきたのだろう。
けれど、
「ちょっと、ニューティ……!」
この時の彼女の態度が礼を失したものにしか見えないパティリエカがニューティを叱ろうと声を上げたのを、
「……」
レイラが手をかざして制した。その上で、
「構いません。このままで。これは必要なことなのです」
穏やかに告げる。大切な者を理不尽な形で喪った人間がどうなるか、ロボットであるがゆえに膨大な実例のデータを引き継ぐことができているがゆえに。
こうして十分ほど泣いた後、
「申し訳ございません。お見苦しいところをお見せしてしまいました……」
ニューティが詫びつつ涙を拭って顔を上げた。すっかり化粧が崩れた上に泣き腫らしたひどいそれだったが、感情を吐き出したことでいくらか落ち着いたのが分かる柔和なそれにもなっていることを、レイラは確認、
「では改めて、貴女の仕事についてお知らせします」
と、シェイナと引き合わせた。
「貴女にお願いしたい主な仕事は、私が留守の間、このシェイナの傍にいていただくことです。特に夜の間ですね。加えて、家事全般。ゆえに、私の邸宅に住み込みという形になるでしょう。これはすでにパティリエカ様からも承諾いただいております」
「パティリエカ様……」
ニューティが視線を向けると、
「そういうことよ。今日からあなたは、このレイラ様にお仕えするの。ただし、これ以上さっきみたいな無様な姿を晒すのはナシ。あなたを紹介した私の顔に泥を塗るような真似は許さないから……!」
パティリエカがきっぱりと告げた。
「はい、承知いたしました」
改まって姿勢を正し深々と頭を下げるニューティを、シェイナは困惑した様子で見ていた。そんなシェイナに、レイラは、
「大丈夫ですよ。彼女には私のお手伝いをしていただくだけです。あなたを彼女に預けてしまったりはしません」
不安を見抜き、声を掛けた。
「あ…はい、分かりました……」
レイラの言葉にシェイナもホッとした様子で、空気が和む。
しかしそこに、
「レイラ様、お時間です。お部屋にお戻りください」
軍議の再開を兵士が告げに来る。
「はい、今、参ります」
表情を引き締め凛々しいそれになったレイラが、
「それでは、ニューティ。針仕事はできますか?」
問い掛けると、ニューティは「はい」と応えた。
「では、この部屋で待機していただく間に、私のための外套を一着、しつらえてください。それであなたの技量を測らせていただきます」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
異世界起動兵器ゴーレム
ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに
撥ねられてしまった。そして良太郎
が目覚めると、そこは異世界だった。
さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、
ゴーレムと化していたのだ。良太郎が
目覚めた時、彼の目の前にいたのは
魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は
未知の世界で右も左も分からない状態
の良太郎と共に冒険者生活を営んで
いく事を決めた。だがこの世界の裏
では凶悪な影が……良太郎の異世界
でのゴーレムライフが始まる……。
ファンタジーバトル作品、開幕!

獣人のよろずやさん
京衛武百十
ファンタジー
外宇宙惑星探査チーム<コーネリアス>の隊員六十名は、探査のために訪れたN8455星団において、空間や電磁波や重力までもが異常な宙域に突入してしまい探査船が故障、ある惑星に不時着してしまう。
その惑星は非常に地球に似た、即移住可能な素晴らしい惑星だったが、探査船は航行不能。通信もできないという状態で、サバイバル生活を余儀なくされてしまった。
幸い、探査船の生命維持機能は無事だったために隊員達はそれほど苦労なく生き延びることができていた。
<あれ>が現れるまでは。
それに成す術なく隊員達は呑み込まれていく。
しかし―――――
外宇宙惑星探査チーム<コーネリアス>の隊員だった相堂幸正、久利生遥偉、ビアンカ・ラッセの三人は、なぜか意識を取り戻すこととなった。
しかも、透明な体を持って。
さらに三人がいたのは、<獣人>とも呼ぶべき、人間に近いシルエットを持ちながら獣の姿と能力を持つ種族が跋扈する世界なのであった。
筆者注。
こちらに搭乗する<ビアンカ・ラッセ>は、「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)」に登場する<ビアンカ>よりもずっと<軍人としての姿>が表に出ている、オリジナルの彼女に近いタイプです。一方、あちらは、輪をかけて特殊な状況のため、<軍人としてのビアンカ・ラッセ>の部分が剥がれ落ちてしまった、<素のビアンカ・ラッセ>が表に出ています。
どちらも<ビアンカ・ラッセ>でありつつ、大きくルート分岐したことで、ほとんど別人のように変化してしまっているのです。

巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~
味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。
しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。
彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。
故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。
そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。
これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。
冷酷魔法騎士と見習い学士
枝浬菰文庫
ファンタジー
一人の少年がドラゴンを従え国では最少年でトップクラスになった。
ドラゴンは決して人には馴れないと伝えられていて、住処は「絶海」と呼ばれる無の世界にあった。
だが、周りからの視線は冷たく貴族は彼のことを認めなかった。
それからも国を救うが称賛の声は上がらずいまや冷酷魔法騎士と呼ばれるようになってしまった。
そんなある日、女神のお遊びで冷酷魔法騎士は少女の姿になってしまった。
そんな姿を皆はどう感じるのか…。
そして暗黒世界との闘いの終末は訪れるのか…。
※こちらの内容はpixiv、フォレストページにて展開している小説になります。
画像の二次加工、保存はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる