34 / 108
レイラ
埒外の話
しおりを挟む
ここまでの諸々で、レイラは、この<ベル・ルデニオーラ>という国が非常に規律正しく優秀な人間の集まりであることは十分に察せられた。国家運営にとって好ましくない輩は登用せず、人材を厳選しているのは確かだろう。
ただし、その代わり、<ふさわしくない者>に対しては冷淡であることが窺えた。本来の王都<ルデニオン>はあくまで城壁の内側にある街であり、城壁の外にあるものは勝手に住み着いた者達の<集落>という扱いなのもはっきりした。
そして、勝手に住むことを許す代わりに、
<デモニューマをはじめとした外敵の襲撃に備えるための肉の壁>
としての役割を与え、<臣民>としては扱わない。この<選民政策>により、臣民の求心力を得ているものと推測される。
さりとて、城壁の外に暮らす人々も、決して<罪人>や<咎人>というわけではない。邪険にされているわけでもない。城壁内で整備されている上下水道も延伸され、好きに利用して生活することはできる。それだけでも十分に恩恵に与れているからこそ、人々は強く反発もしていないわけだ。
『法の下の平等が保障されている社会ではこのようなことは許されませんが、この地においては必要な仕組みであることは私のシミュレーションからも確認できます。ですので、私が行うべきはこの社会を否定することではなく、デモニューマという脅威から人々を守ることです』
ここまで得られた情報を基に、レイラは自らのAIによってシミュレーションを行い、彼女が元々いた社会ような<法の下の平等>を保障できる制度の実現が可能かどうかを改めて探ってみた。しかし、現時点では何度シミュレーションを行っても<破綻>という結果にしかならない。それを実現するにはあらゆるリソースが不足しているのだ。
ゆえに彼女は、この地の社会制度については一切口出ししないこととした。個別の案件については可能な限り対処も行うものの、社会そのものを根底から変えるのは自身の役目ではないと確認したのである。
シェイナを<使用人>として傍に置くことにしたのもそれだ。国としての<ベル・ルデニオーラ>は、シェイナの人権を保障してはくれない。そういう仕組みがないからだ。彼女が親から虐待を受けている事実を把握しても、対処はしない。城壁の中の臣民については<共助>の対象ではあるものの、それ以外の者達は<自助>のみが頼りとなる。
けれど、それを是とせず、
<誰しもが生きる権利を保障される社会>
を目指すのは、どこまでも人間自身が決めること。
ロボットであるレイラにとっては<埒外>の話なのだった。
ただし、その代わり、<ふさわしくない者>に対しては冷淡であることが窺えた。本来の王都<ルデニオン>はあくまで城壁の内側にある街であり、城壁の外にあるものは勝手に住み着いた者達の<集落>という扱いなのもはっきりした。
そして、勝手に住むことを許す代わりに、
<デモニューマをはじめとした外敵の襲撃に備えるための肉の壁>
としての役割を与え、<臣民>としては扱わない。この<選民政策>により、臣民の求心力を得ているものと推測される。
さりとて、城壁の外に暮らす人々も、決して<罪人>や<咎人>というわけではない。邪険にされているわけでもない。城壁内で整備されている上下水道も延伸され、好きに利用して生活することはできる。それだけでも十分に恩恵に与れているからこそ、人々は強く反発もしていないわけだ。
『法の下の平等が保障されている社会ではこのようなことは許されませんが、この地においては必要な仕組みであることは私のシミュレーションからも確認できます。ですので、私が行うべきはこの社会を否定することではなく、デモニューマという脅威から人々を守ることです』
ここまで得られた情報を基に、レイラは自らのAIによってシミュレーションを行い、彼女が元々いた社会ような<法の下の平等>を保障できる制度の実現が可能かどうかを改めて探ってみた。しかし、現時点では何度シミュレーションを行っても<破綻>という結果にしかならない。それを実現するにはあらゆるリソースが不足しているのだ。
ゆえに彼女は、この地の社会制度については一切口出ししないこととした。個別の案件については可能な限り対処も行うものの、社会そのものを根底から変えるのは自身の役目ではないと確認したのである。
シェイナを<使用人>として傍に置くことにしたのもそれだ。国としての<ベル・ルデニオーラ>は、シェイナの人権を保障してはくれない。そういう仕組みがないからだ。彼女が親から虐待を受けている事実を把握しても、対処はしない。城壁の中の臣民については<共助>の対象ではあるものの、それ以外の者達は<自助>のみが頼りとなる。
けれど、それを是とせず、
<誰しもが生きる権利を保障される社会>
を目指すのは、どこまでも人間自身が決めること。
ロボットであるレイラにとっては<埒外>の話なのだった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる