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レイラ
パティリエカ
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「この強情っぱりが!」
「強情を張ってらっしゃるのはお姉さまの方でしょう?」
などと、二人は互いに一歩も引かない様子で言い合っていた。が、このままだとさすがに埒が明きそうにないので、
「少し、待っててもらえますか?」
シェイナにそう言ってレイラが腰を上げようとした。
「……!」
しかし、シェイナは必死で首を横に振ってレイラの手を掴む。
するとレイラは、無理にその手をほどくことはせずに、
「分かりました。では、私と一緒に下りていただけますか?」
そう問い直すと、シェイナもおずおずと首を縦に振った。怖いけれど、一人で残されるよりはずっとマシということだったのだろう。だとすれば、それに則した対応をするだけだ。
だからレイラはシェイナを抱いて、馬車を降りた。
瞬間、
「な……っ!?」
パティリエカが目を見開いて息を吞む。しかも、彼女の背後に控えていた『ブルーディス』と呼ばれた偉丈夫も、ビリッと電気にでも打たれたかのように緊張が走った。
『この女性は、ただものじゃない……っ!』
馬車から降りてくるだけの僅かな身のこなしを見て、ブルーディスにはそれが分かったのだ。彼女の、
『十二歳くらいの少女を抱きかかえつつ馬車を降りる』
という動作のどこにも破綻が一切なく、恐ろしいまでの完璧な体の使い方が察せられて、そこに秘められた圧倒的な<力>に気付いてしまったのである。
『強い……まぎれもなく強い……!』
ブルーディスはそう直感した。ゆえに、
「パティリエカ様…! エギナ様のおっしゃることは真実でございます。この者、私よりも間違いなく強い。これは陛下にお知らせせねばなりません……!」
と、身分の違いを超えて敢えて進言せずにいられなかった。
「はえ……っ!?」
思いがけない彼の言葉に、パティリエカの表情が崩れる。それまでの、感情を高ぶらせながらもなおも高貴さを失わなかったそれが、年齢相応の<子供>が驚いた時のあどけないそれになってしまったのである。
「え…ええ……っ!? ブルーディス、あなたまで……!?」
動揺するパティリエカに、ブルーディスはなおも言う。
「パティリエカ様。私は貴女様に生涯の忠誠を誓った身。その私が申し上げるのです。パティリエカ様への忠節に誓い、嘘偽りは申しません」
と。
「ええ……?」
忠臣のまさかの進言に、パティリエカは唖然とするしかできなかった。しかしそれも数秒の間。
「あ……そう、なの…? まあ、あなたがそう言うのなら、確かなんでしょう。分かりました。それでは、私の方からお父様に話して差し上げます。それでいいですね、お姉さま?」
姿勢を正し気を取り直し、パティリエカはエギナに向かってそう告げたのだった。
「強情を張ってらっしゃるのはお姉さまの方でしょう?」
などと、二人は互いに一歩も引かない様子で言い合っていた。が、このままだとさすがに埒が明きそうにないので、
「少し、待っててもらえますか?」
シェイナにそう言ってレイラが腰を上げようとした。
「……!」
しかし、シェイナは必死で首を横に振ってレイラの手を掴む。
するとレイラは、無理にその手をほどくことはせずに、
「分かりました。では、私と一緒に下りていただけますか?」
そう問い直すと、シェイナもおずおずと首を縦に振った。怖いけれど、一人で残されるよりはずっとマシということだったのだろう。だとすれば、それに則した対応をするだけだ。
だからレイラはシェイナを抱いて、馬車を降りた。
瞬間、
「な……っ!?」
パティリエカが目を見開いて息を吞む。しかも、彼女の背後に控えていた『ブルーディス』と呼ばれた偉丈夫も、ビリッと電気にでも打たれたかのように緊張が走った。
『この女性は、ただものじゃない……っ!』
馬車から降りてくるだけの僅かな身のこなしを見て、ブルーディスにはそれが分かったのだ。彼女の、
『十二歳くらいの少女を抱きかかえつつ馬車を降りる』
という動作のどこにも破綻が一切なく、恐ろしいまでの完璧な体の使い方が察せられて、そこに秘められた圧倒的な<力>に気付いてしまったのである。
『強い……まぎれもなく強い……!』
ブルーディスはそう直感した。ゆえに、
「パティリエカ様…! エギナ様のおっしゃることは真実でございます。この者、私よりも間違いなく強い。これは陛下にお知らせせねばなりません……!」
と、身分の違いを超えて敢えて進言せずにいられなかった。
「はえ……っ!?」
思いがけない彼の言葉に、パティリエカの表情が崩れる。それまでの、感情を高ぶらせながらもなおも高貴さを失わなかったそれが、年齢相応の<子供>が驚いた時のあどけないそれになってしまったのである。
「え…ええ……っ!? ブルーディス、あなたまで……!?」
動揺するパティリエカに、ブルーディスはなおも言う。
「パティリエカ様。私は貴女様に生涯の忠誠を誓った身。その私が申し上げるのです。パティリエカ様への忠節に誓い、嘘偽りは申しません」
と。
「ええ……?」
忠臣のまさかの進言に、パティリエカは唖然とするしかできなかった。しかしそれも数秒の間。
「あ……そう、なの…? まあ、あなたがそう言うのなら、確かなんでしょう。分かりました。それでは、私の方からお父様に話して差し上げます。それでいいですね、お姉さま?」
姿勢を正し気を取り直し、パティリエカはエギナに向かってそう告げたのだった。
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