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レイラ
エギナ・バルシア
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同時にエギナの背筋を疾り抜ける冷たい何か。
<恐怖>だった。途方もない存在を前にした彼女の本能が訴え掛けてくるもの。
「く……っ!」
咄嗟にエギナは後方に飛び退き、間合いを取った。
そうするしかできなかったのだ。
立っているステージが全く違うと彼女は悟った。
「化け物め……っ!」
エギナが冷や汗を溢れさせながら呟く。
一方、レイラの方もかすかに驚いた表情をしていた。
『これは、私のデータにある一流の格闘家のそれに匹敵する威力ですね。技そのものは非常に荒削りですが、それを補って余りある身体能力。厳しい世界を生きるにあたって必要とされる能力の違いなのでしょう』
そう解析する。
とは言え、どれほど高い能力を持っていようとも、人間が発揮しうるそれでは、レイラにダメージを与えることはできない。
エギナもそれを悟り、瞬時に戦い方を変えてきた。間合いを取り右手を差し出し、
「ズィオーラ!」
と叫ぶ。
すると髭面の小隊長を始めの周りの兵士達が、ぎょっとした表情になる。
「中隊長! それはいくらなんでもやりすぎでは!?」
髭面の小隊長が叫ぶ。青い顔で。
けれど、
「?」
レイラは、まるでフィクションで<魔法>と呼ばれるものが使われる時の動作のようなそれに備えて身構えてみせた。するとエギナが、
「バカな!?」
と声を上げる。
「スタンが……効かない……?」
髭面の小隊長も唖然とした様子で呟いた。
『<スタン>? 麻痺の魔法ですか?』
レイラはそう思うものの、確かに、未知の干渉は検出されたものの、彼女に影響を及ぼす類のものじゃなかった。
「デモニューマの動きすら封じる中隊長のスタンが……!?」
兵士達に動揺が広がる。しかし 、レイラにしてみれば、実際に影響が出る何らかの作用は検出できなかったので、反応のしようすらない。対して、
「この、化け物があっっ!!」
エギナは悲鳴のように叫んだ。
切り札であったであろうそれが通用しなかったことでパニックを起こしたようだ。先ほど口にした<化け物>とは明らかにニュアンスが違っている。おそらく先のは<化け物じみた人間>としてのそれだったものが、今回は本当に<得体の知れない怪物>としての表現へと。
そしてあろうことか木剣を投げ捨て闇雲に突進してきて、蹴りや拳をめったやたらと打ち込んでくる。理屈ではない。それこそ恐慌に陥った獣が本能的に相手を攻撃しているように。
レイラはそれをただ黙って受け止めた。防御さえすることなく。
とは言え、完全にされるがままになっていたのでは、逆にエギナが怪我をする可能性があったので、蹴りや拳が体に当たる瞬間、わずかに動いて衝撃を緩和しつつだが。
技もへったくれもない無茶苦茶な連続攻撃だったものの、普通の人間であれば、これでも、手も足も出なかったであろう。エギナの素養の高さが窺われる。
が、レイラはそれら全てを受け切って、ゼイゼイと息を切らせたエギナがその場に膝をつくのを、待っていただけであった。
<恐怖>だった。途方もない存在を前にした彼女の本能が訴え掛けてくるもの。
「く……っ!」
咄嗟にエギナは後方に飛び退き、間合いを取った。
そうするしかできなかったのだ。
立っているステージが全く違うと彼女は悟った。
「化け物め……っ!」
エギナが冷や汗を溢れさせながら呟く。
一方、レイラの方もかすかに驚いた表情をしていた。
『これは、私のデータにある一流の格闘家のそれに匹敵する威力ですね。技そのものは非常に荒削りですが、それを補って余りある身体能力。厳しい世界を生きるにあたって必要とされる能力の違いなのでしょう』
そう解析する。
とは言え、どれほど高い能力を持っていようとも、人間が発揮しうるそれでは、レイラにダメージを与えることはできない。
エギナもそれを悟り、瞬時に戦い方を変えてきた。間合いを取り右手を差し出し、
「ズィオーラ!」
と叫ぶ。
すると髭面の小隊長を始めの周りの兵士達が、ぎょっとした表情になる。
「中隊長! それはいくらなんでもやりすぎでは!?」
髭面の小隊長が叫ぶ。青い顔で。
けれど、
「?」
レイラは、まるでフィクションで<魔法>と呼ばれるものが使われる時の動作のようなそれに備えて身構えてみせた。するとエギナが、
「バカな!?」
と声を上げる。
「スタンが……効かない……?」
髭面の小隊長も唖然とした様子で呟いた。
『<スタン>? 麻痺の魔法ですか?』
レイラはそう思うものの、確かに、未知の干渉は検出されたものの、彼女に影響を及ぼす類のものじゃなかった。
「デモニューマの動きすら封じる中隊長のスタンが……!?」
兵士達に動揺が広がる。しかし 、レイラにしてみれば、実際に影響が出る何らかの作用は検出できなかったので、反応のしようすらない。対して、
「この、化け物があっっ!!」
エギナは悲鳴のように叫んだ。
切り札であったであろうそれが通用しなかったことでパニックを起こしたようだ。先ほど口にした<化け物>とは明らかにニュアンスが違っている。おそらく先のは<化け物じみた人間>としてのそれだったものが、今回は本当に<得体の知れない怪物>としての表現へと。
そしてあろうことか木剣を投げ捨て闇雲に突進してきて、蹴りや拳をめったやたらと打ち込んでくる。理屈ではない。それこそ恐慌に陥った獣が本能的に相手を攻撃しているように。
レイラはそれをただ黙って受け止めた。防御さえすることなく。
とは言え、完全にされるがままになっていたのでは、逆にエギナが怪我をする可能性があったので、蹴りや拳が体に当たる瞬間、わずかに動いて衝撃を緩和しつつだが。
技もへったくれもない無茶苦茶な連続攻撃だったものの、普通の人間であれば、これでも、手も足も出なかったであろう。エギナの素養の高さが窺われる。
が、レイラはそれら全てを受け切って、ゼイゼイと息を切らせたエギナがその場に膝をつくのを、待っていただけであった。
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