上 下
23 / 108
レイラ

エギナ・バルシア

しおりを挟む
同時にエギナの背筋を疾り抜ける冷たい何か。

<恐怖>だった。途方もない存在を前にした彼女の本能が訴え掛けてくるもの。

「く……っ!」

咄嗟にエギナは後方に飛び退き、間合いを取った。

そうするしかできなかったのだ。

立っているステージが全く違うと彼女は悟った。

「化け物め……っ!」

エギナが冷や汗を溢れさせながら呟く。

一方、レイラの方もかすかに驚いた表情をしていた。

『これは、私のデータにある一流の格闘家のそれに匹敵する威力ですね。技そのものは非常に荒削りですが、それを補って余りある身体能力。厳しい世界を生きるにあたって必要とされる能力の違いなのでしょう』

そう解析する。

とは言え、どれほど高い能力を持っていようとも、人間が発揮しうるそれでは、レイラにダメージを与えることはできない。

エギナもそれを悟り、瞬時に戦い方を変えてきた。間合いを取り右手を差し出し、

「ズィオーラ!」

と叫ぶ。

すると髭面の小隊長を始めの周りの兵士達が、ぎょっとした表情になる。

「中隊長! それはいくらなんでもやりすぎでは!?」

髭面の小隊長が叫ぶ。青い顔で。

けれど、

「?」

レイラは、まるでフィクションで<魔法>と呼ばれるものが使われる時の動作のようなそれに備えて身構えてみせた。するとエギナが、

「バカな!?」

と声を上げる。

「スタンが……効かない……?」

髭面の小隊長も唖然とした様子で呟いた。

『<スタン>? 麻痺の魔法ですか?』

レイラはそう思うものの、確かに、未知の干渉は検出されたものの、彼女に影響を及ぼす類のものじゃなかった。

「デモニューマの動きすら封じる中隊長のスタンが……!?」

兵士達に動揺が広がる。しかし 、レイラにしてみれば、実際に影響が出る何らかの作用は検出できなかったので、反応のしようすらない。対して、

「この、化け物があっっ!!」

エギナは悲鳴のように叫んだ。

切り札であったであろうそれが通用しなかったことでパニックを起こしたようだ。先ほど口にした<化け物>とは明らかにニュアンスが違っている。おそらく先のは<化け物じみた人間>としてのそれだったものが、今回は本当に<得体の知れない怪物>としての表現へと。

そしてあろうことか木剣を投げ捨て闇雲に突進してきて、蹴りや拳をめったやたらと打ち込んでくる。理屈ではない。それこそ恐慌に陥った獣が本能的に相手を攻撃しているように。

レイラはそれをただ黙って受け止めた。防御さえすることなく。

とは言え、完全にされるがままになっていたのでは、逆にエギナが怪我をする可能性があったので、蹴りや拳が体に当たる瞬間、わずかに動いて衝撃を緩和しつつだが。

技もへったくれもない無茶苦茶な連続攻撃だったものの、普通の人間であれば、これでも、手も足も出なかったであろう。エギナの素養の高さが窺われる。

が、レイラはそれら全てを受け切って、ゼイゼイと息を切らせたエギナがその場に膝をつくのを、待っていただけであった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【R18】無口な百合は今日も放課後弄ばれる

Yuki
恋愛
※性的表現が苦手な方はお控えください。 金曜日の放課後――それは百合にとって試練の時間。 金曜日の放課後――それは末樹と未久にとって幸せの時間。 3人しかいない教室。 百合の細腕は頭部で捕まれバンザイの状態で固定される。 がら空きとなった腋を末樹の10本の指が蠢く。 無防備の耳を未久の暖かい吐息が這う。 百合は顔を歪ませ紅らめただ声を押し殺す……。 女子高生と女子高生が女子高生で遊ぶ悪戯ストーリー。

フェンリル娘と異世界無双!!~ダメ神の誤算で生まれたデミゴッド~

華音 楓
ファンタジー
主人公、間宮陸人(42歳)は、世界に絶望していた。 そこそこ順風満帆な人生を送っていたが、あるミスが原因で仕事に追い込まれ、そのミスが連鎖反応を引き起こし、最終的にはビルの屋上に立つことになった。 そして一歩を踏み出して身を投げる。 しかし、陸人に訪れたのは死ではなかった。 眩しい光が目の前に現れ、周囲には白い神殿のような建物があり、他にも多くの人々が突如としてその場に現れる。 しばらくすると、神を名乗る人物が現れ、彼に言い渡したのは、異世界への転移。 陸人はこれから始まる異世界ライフに不安を抱えつつも、ある意味での人生の再スタートと捉え、新たな一歩を踏み出す決意を固めた……はずだった…… この物語は、間宮陸人が幸か不幸か、異世界での新たな人生を満喫する物語である……はずです。

処理中です...