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レイラ

まずは現状確認を

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『体温、脈拍、血圧、血流量、呼吸数、発汗共に高く、脳波にも乱れがありますが、これは異常ではありませんね』

少女の、自分を見る目や表情から単に高揚しているだけであることを察し、他に大きな傷などの所見もなく、生命維持に支障がないことを確認、

「立てますか?」

と、やはり穏やかに問い掛けた。その声がまた耳に心地好く、少女はますますうっとりとなりながら体を起そうとするものの力が入らず、まったく立ち上がることができそうになかった。

「では、失礼いたします」

少女が立ち上がれないことを察すると、レイラはそう断った上で、するりとその体を抱き上げた。いわゆる、<お姫様抱っこ>という形で。

まるで自分の体の重さが失われてしまったかのように軽々と抱き上げられたことに、少女は、

「あひゃっ!?」

と声を上げ、さらに顔を真っ赤に。

「ご自宅までお送りしましょうか? それとも、病院もしくは警察に?」

レイラはあくまで少女を、<自身が知る人間>として接した。けれど、少女は、彼女の問い掛けを耳にした瞬間、すうっと冷静になるのが分かった。そして……

「家には、帰りたくない……」

と。彼女が知る言語に近いものの<訛り>が酷いのか、少女の表情や口調から補正しなければ意味が読み取れないほどのもの。

その言葉の調子と表情とバイタルサイン、及び、いかにも粗末な服をまとい、しかも手足には無数の<痣>を視認したことで、レイラは察した。

『虐待事案ですか……』

そこで、

「<児童保護法三条三項>に該当すると判断。現時点をもって私があなたを保護し、関係諸機関に通告。速やかに対応を開始します」

毅然とした、それでいて優しい口調と態度で宣告する。

すると少女は、

「う……うう……」

と呻きながら彼女に抱きつき、体を震わせて涙をこぼし始めた。

そんな少女の体をそっと撫でながら、

「もう心配要りません。あなたの権利はすべて保障されます。私はそのためにいるのです」

ただただ穏やかにそう告げた。言葉そのものは十分に通じていない可能性もありつつ、その意図するところはおおむね伝わったようだ。

だが、同時に、<関係諸機関>への通告のために通信を確保しようとするが、繋がらない。それどころか。

『これはいったい、いかなる事態ですか? 通信が繋がらないどころか、有意な電波が一切拾えない? 通信局も、送電網も、衛星さえ機能していない? このようなことが有り得るのですか?』

感情を持たないロボットゆえにうろたえることはないものの、彼女にはまったく理解不能な状況に、困惑するしかできなかった。

『重要なライフラインがまったく機能していない? 通信が可能な範囲内に私以外のロボットも存在していない?』

およそ考えられないそれを受け、彼女は、自律行動が許されているロボットだからこそ、

『人命尊重を最優先。まずは現状確認を』

と結論を出し、

『現在の私の機能は、ほぼ百パーセント健全。データ転送のために仮接続したバッテリーも問題なし、消耗も〇.〇〇一パーセント未満。通常モードであれば四十日は無給電で稼動が可能』

自身の状態を確認したのだった。

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