11 / 108
レイラ
まずは現状確認を
しおりを挟む
『体温、脈拍、血圧、血流量、呼吸数、発汗共に高く、脳波にも乱れがありますが、これは異常ではありませんね』
少女の、自分を見る目や表情から単に高揚しているだけであることを察し、他に大きな傷などの所見もなく、生命維持に支障がないことを確認、
「立てますか?」
と、やはり穏やかに問い掛けた。その声がまた耳に心地好く、少女はますますうっとりとなりながら体を起そうとするものの力が入らず、まったく立ち上がることができそうになかった。
「では、失礼いたします」
少女が立ち上がれないことを察すると、レイラはそう断った上で、するりとその体を抱き上げた。いわゆる、<お姫様抱っこ>という形で。
まるで自分の体の重さが失われてしまったかのように軽々と抱き上げられたことに、少女は、
「あひゃっ!?」
と声を上げ、さらに顔を真っ赤に。
「ご自宅までお送りしましょうか? それとも、病院もしくは警察に?」
レイラはあくまで少女を、<自身が知る人間>として接した。けれど、少女は、彼女の問い掛けを耳にした瞬間、すうっと冷静になるのが分かった。そして……
「家には、帰りたくない……」
と。彼女が知る言語に近いものの<訛り>が酷いのか、少女の表情や口調から補正しなければ意味が読み取れないほどのもの。
その言葉の調子と表情とバイタルサイン、及び、いかにも粗末な服をまとい、しかも手足には無数の<痣>を視認したことで、レイラは察した。
『虐待事案ですか……』
そこで、
「<児童保護法三条三項>に該当すると判断。現時点をもって私があなたを保護し、関係諸機関に通告。速やかに対応を開始します」
毅然とした、それでいて優しい口調と態度で宣告する。
すると少女は、
「う……うう……」
と呻きながら彼女に抱きつき、体を震わせて涙をこぼし始めた。
そんな少女の体をそっと撫でながら、
「もう心配要りません。あなたの権利はすべて保障されます。私はそのためにいるのです」
ただただ穏やかにそう告げた。言葉そのものは十分に通じていない可能性もありつつ、その意図するところはおおむね伝わったようだ。
だが、同時に、<関係諸機関>への通告のために通信を確保しようとするが、繋がらない。それどころか。
『これはいったい、いかなる事態ですか? 通信が繋がらないどころか、有意な電波が一切拾えない? 通信局も、送電網も、衛星さえ機能していない? このようなことが有り得るのですか?』
感情を持たないロボットゆえにうろたえることはないものの、彼女にはまったく理解不能な状況に、困惑するしかできなかった。
『重要なライフラインがまったく機能していない? 通信が可能な範囲内に私以外のロボットも存在していない?』
およそ考えられないそれを受け、彼女は、自律行動が許されているロボットだからこそ、
『人命尊重を最優先。まずは現状確認を』
と結論を出し、
『現在の私の機能は、ほぼ百パーセント健全。データ転送のために仮接続したバッテリーも問題なし、消耗も〇.〇〇一パーセント未満。通常モードであれば四十日は無給電で稼動が可能』
自身の状態を確認したのだった。
少女の、自分を見る目や表情から単に高揚しているだけであることを察し、他に大きな傷などの所見もなく、生命維持に支障がないことを確認、
「立てますか?」
と、やはり穏やかに問い掛けた。その声がまた耳に心地好く、少女はますますうっとりとなりながら体を起そうとするものの力が入らず、まったく立ち上がることができそうになかった。
「では、失礼いたします」
少女が立ち上がれないことを察すると、レイラはそう断った上で、するりとその体を抱き上げた。いわゆる、<お姫様抱っこ>という形で。
まるで自分の体の重さが失われてしまったかのように軽々と抱き上げられたことに、少女は、
「あひゃっ!?」
と声を上げ、さらに顔を真っ赤に。
「ご自宅までお送りしましょうか? それとも、病院もしくは警察に?」
レイラはあくまで少女を、<自身が知る人間>として接した。けれど、少女は、彼女の問い掛けを耳にした瞬間、すうっと冷静になるのが分かった。そして……
「家には、帰りたくない……」
と。彼女が知る言語に近いものの<訛り>が酷いのか、少女の表情や口調から補正しなければ意味が読み取れないほどのもの。
その言葉の調子と表情とバイタルサイン、及び、いかにも粗末な服をまとい、しかも手足には無数の<痣>を視認したことで、レイラは察した。
『虐待事案ですか……』
そこで、
「<児童保護法三条三項>に該当すると判断。現時点をもって私があなたを保護し、関係諸機関に通告。速やかに対応を開始します」
毅然とした、それでいて優しい口調と態度で宣告する。
すると少女は、
「う……うう……」
と呻きながら彼女に抱きつき、体を震わせて涙をこぼし始めた。
そんな少女の体をそっと撫でながら、
「もう心配要りません。あなたの権利はすべて保障されます。私はそのためにいるのです」
ただただ穏やかにそう告げた。言葉そのものは十分に通じていない可能性もありつつ、その意図するところはおおむね伝わったようだ。
だが、同時に、<関係諸機関>への通告のために通信を確保しようとするが、繋がらない。それどころか。
『これはいったい、いかなる事態ですか? 通信が繋がらないどころか、有意な電波が一切拾えない? 通信局も、送電網も、衛星さえ機能していない? このようなことが有り得るのですか?』
感情を持たないロボットゆえにうろたえることはないものの、彼女にはまったく理解不能な状況に、困惑するしかできなかった。
『重要なライフラインがまったく機能していない? 通信が可能な範囲内に私以外のロボットも存在していない?』
およそ考えられないそれを受け、彼女は、自律行動が許されているロボットだからこそ、
『人命尊重を最優先。まずは現状確認を』
と結論を出し、
『現在の私の機能は、ほぼ百パーセント健全。データ転送のために仮接続したバッテリーも問題なし、消耗も〇.〇〇一パーセント未満。通常モードであれば四十日は無給電で稼動が可能』
自身の状態を確認したのだった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
【R18】無口な百合は今日も放課後弄ばれる
Yuki
恋愛
※性的表現が苦手な方はお控えください。
金曜日の放課後――それは百合にとって試練の時間。
金曜日の放課後――それは末樹と未久にとって幸せの時間。
3人しかいない教室。
百合の細腕は頭部で捕まれバンザイの状態で固定される。
がら空きとなった腋を末樹の10本の指が蠢く。
無防備の耳を未久の暖かい吐息が這う。
百合は顔を歪ませ紅らめただ声を押し殺す……。
女子高生と女子高生が女子高生で遊ぶ悪戯ストーリー。
フェンリル娘と異世界無双!!~ダメ神の誤算で生まれたデミゴッド~
華音 楓
ファンタジー
主人公、間宮陸人(42歳)は、世界に絶望していた。
そこそこ順風満帆な人生を送っていたが、あるミスが原因で仕事に追い込まれ、そのミスが連鎖反応を引き起こし、最終的にはビルの屋上に立つことになった。
そして一歩を踏み出して身を投げる。
しかし、陸人に訪れたのは死ではなかった。
眩しい光が目の前に現れ、周囲には白い神殿のような建物があり、他にも多くの人々が突如としてその場に現れる。
しばらくすると、神を名乗る人物が現れ、彼に言い渡したのは、異世界への転移。
陸人はこれから始まる異世界ライフに不安を抱えつつも、ある意味での人生の再スタートと捉え、新たな一歩を踏み出す決意を固めた……はずだった……
この物語は、間宮陸人が幸か不幸か、異世界での新たな人生を満喫する物語である……はずです。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる