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見守り
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琴羽は、椎津琴乃に促されて母屋の方に上がると、ランドセルを乱暴にリビングの床に下ろした。すると、ランドセルのフックに掛けられていた体操服の袋がゴトッという、体操服だけが入っているにしては不自然な音を立てた。
『ヤバッ!』
琴羽は焦ったが、母親も玲那もそれに気付いた様子がなく、ホッと胸を撫で下ろす。<少々過激な内容の少女漫画のコミックス>を隠していて、それに気付かれるのはさすがに恥ずかしかったからだ。
いつもならもっと気を付けている筈が、母親の勤め先に来て、家とはまるで違う母親の姿に気を取られてうっかりしていたのである。
しかし、この時、実は玲那はその不自然さを察していた。察してはいたのだが、敢えて何も言わなかった。今の時点では下手にそういう部分には触れない方がいいことを知っていたからである。本人が隠しているものに迂闊に触れるのは、藪をつついて蛇を出すことにもなりかねない。もっと親しくなりくだけた話もできるようになってからならバレても笑い話にしてしまえる場合もあるが、今はまだ逃げられてしまう可能性が高い。
だからそっとしておくのだ。
なのでそれはそれとして、出されたジュースを琴羽と一緒に飲みながら、真猫が現れるのを待った。
すると、先に、日葵の方が母親に連れられて訪れた。一旦家に帰ってからすぐに来たらしい。
そこに、真猫も現れた。そして、日葵は手提げカバンからドリルとノートを取り出し、宿題を始めた。いつもの習慣だった。
真猫は、宿題というものがそもそもできないので決まった宿題は出されていない。それでも、スケッチブックを琴乃に手渡され、そこにぐりぐりと鉛筆を走らせた。日葵の真似をして、字を書いているつもりのようだ。
そんな中で琴羽だけが手持ち無沙汰にしていた。
娘のその姿に、琴乃のイライラはますます募っていく。
『何やってんのよ、あんたも宿題くらいしなさいよ。二人がやってるのに恥ずかしくないの…!?』
と、表面は平静を装いながらも心の中では娘を罵っていた。
琴羽の方は琴羽の方で、そんな母親の様子がおかしくて、
『イライラしてんのに猫被らなきゃいけないからって冷静ぶっちゃって、あ~おかし』
などと、同じく平静を装いながらも内心では母親を嘲っていた。
実によく似た母娘である。
それでも、しばらくすると琴羽としてもさすがに間がもたなくなってきて、
「私も宿題しよっかな~」
と、わざとらしく言い出して、宿題を始める。
しかもその時の顔がまた、母親を露骨に煽っていた。
しかしそれらの様子を、玲那はただ黙って見守っていたのだった。
『ヤバッ!』
琴羽は焦ったが、母親も玲那もそれに気付いた様子がなく、ホッと胸を撫で下ろす。<少々過激な内容の少女漫画のコミックス>を隠していて、それに気付かれるのはさすがに恥ずかしかったからだ。
いつもならもっと気を付けている筈が、母親の勤め先に来て、家とはまるで違う母親の姿に気を取られてうっかりしていたのである。
しかし、この時、実は玲那はその不自然さを察していた。察してはいたのだが、敢えて何も言わなかった。今の時点では下手にそういう部分には触れない方がいいことを知っていたからである。本人が隠しているものに迂闊に触れるのは、藪をつついて蛇を出すことにもなりかねない。もっと親しくなりくだけた話もできるようになってからならバレても笑い話にしてしまえる場合もあるが、今はまだ逃げられてしまう可能性が高い。
だからそっとしておくのだ。
なのでそれはそれとして、出されたジュースを琴羽と一緒に飲みながら、真猫が現れるのを待った。
すると、先に、日葵の方が母親に連れられて訪れた。一旦家に帰ってからすぐに来たらしい。
そこに、真猫も現れた。そして、日葵は手提げカバンからドリルとノートを取り出し、宿題を始めた。いつもの習慣だった。
真猫は、宿題というものがそもそもできないので決まった宿題は出されていない。それでも、スケッチブックを琴乃に手渡され、そこにぐりぐりと鉛筆を走らせた。日葵の真似をして、字を書いているつもりのようだ。
そんな中で琴羽だけが手持ち無沙汰にしていた。
娘のその姿に、琴乃のイライラはますます募っていく。
『何やってんのよ、あんたも宿題くらいしなさいよ。二人がやってるのに恥ずかしくないの…!?』
と、表面は平静を装いながらも心の中では娘を罵っていた。
琴羽の方は琴羽の方で、そんな母親の様子がおかしくて、
『イライラしてんのに猫被らなきゃいけないからって冷静ぶっちゃって、あ~おかし』
などと、同じく平静を装いながらも内心では母親を嘲っていた。
実によく似た母娘である。
それでも、しばらくすると琴羽としてもさすがに間がもたなくなってきて、
「私も宿題しよっかな~」
と、わざとらしく言い出して、宿題を始める。
しかもその時の顔がまた、母親を露骨に煽っていた。
しかしそれらの様子を、玲那はただ黙って見守っていたのだった。
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