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毎日のように<にこやか学級>の教室にやってきては悪態を吐いて帰る椎津琴羽しいづことはを、玲那は快く迎えていた。彼女の<悪態のバリエーション>がどれほど続くのかを楽しみに待っていた。

しかし、琴羽のそれは、僅か数パターンの基本的なそれの組み合わせでしかないことが、一週間ほどで分かってしまった。

「バカじゃないの?」

「どうせ殴れないんでしょ?」

「教師なんてバカでもなれるんでしょ?」

「なんとかって組合に入ってる奴はどうしようもないんだってね」

要約するとこんな感じだろうか。それにその時々のシチュエーションに合わせて単語を重ねるといった感じだろうか。

『かわいいなあ…♡』

その語彙の拙さがまた、玲那にとっては可愛かった。

二週間も経つ頃、琴羽は、自分が何を言ってもニコニコと笑っていて嬉しそうに耳を傾ける玲那のことがいつしか不気味に、いや、はっきり『怖い』と思うようになっていた。

そう、『怖い』のだ。これまで彼女が知るどんな大人とも違う、自分のことを『生意気だ!』とキレる大人とも、『面倒臭い子供だから取り敢えず大人しくやり過ごそう』という態度が見え見えの大人とも違う、自分の言葉に耳を傾けた上でそれを受け流してしまう<得体のしれない教師>のことが、はっきりと怖くなってしまっていたのだ。

なのに、彼女はそれを認めようとしなかった。

『ビビったら負けなんだから! 負けるな私…!』

と自らに喝を入れて、弱みを見せまいとした。そして意地になって通い続けた。

だがさすがに、健常者クラスの生徒が毎日のように<にこやか学級>に通い詰めてることを学校側は問題視し始めていた。

「近頃、<にこやか学級>に来て悪態を吐いていく生徒がいます」

職員会議でそんな発言があったのだ。それを発言したのは、にこやか学級を担当する教師でも、もちろん玲那でもなく、他の健常者クラスの担任教師だった。見るに見かねて問題提起してくれたらしい。

しかし玲那はそれに対してはやや冷ややかな様子だった。

『今頃……か』

問題にするなら椎津琴羽しいづことはが来た初日にするべきだったと彼女は思った。それを今日まで見て見ぬふりをして、今になって言うのははっきりいって『遅い』のだ。

子供が間違ったことをしていると思うなら、その場で言わなければいけない。イジメにしてもそうだ。他の生徒に対して好ましくない言動があった時には、『その時、その場で』指導しなくては意味がない。後で呼び出しとかいうのは、あくまでその時点で行った指導の経過観察の為に行うものだと玲那は思っていた。

『ここで琴羽さんに指導が行われても、タイミングを逸してしまってます。ここまで見逃してきたのになんで今さら!?って思われてしまいます』

それは、玲那自身がかつて感じていたことなのだった。

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