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一世一代

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突然の真猫まなの奇行に、桃弥とうやも玲那も戸惑うしかできなかった。

しかし、<奇行>と感じるのはあくまで『自分から見て』の話である。自分の感覚や常識や先入観から外れているというだけで<奇行>と捉え、眉を顰めるのだ。人間の悪癖である。

玲那はそのことをよく知っていた。

真猫まなさんのこの行動にも必ず意味がある。それはたぶん、私と笹蒲池さんの様子がいつもと違うから? それで不安になってるのかもしれない』

そう考えた玲那は、桃弥とうやに言った。

「笹蒲池さん。真猫まなさんは私達の様子がいつもと違うことに不安を感じてるんだと思います。だからはっきりさせませんか? お互いにはっきりさせて、それでいつもの状態に戻りましょう」

玲那にそう言われて、桃弥とうやもハッとなった。

『ああ、そういうことか…!?』

確かに今まで真猫まなはこんなことはしなかった。今までしなかったことをするようになったということは、彼女にとってこれまでと何かが違うということだろう。そして、真猫まな自身に何か変化があるようには感じられなかったから、変化があるとすればそれはそれは自分達の方である。自分達がこのように悶々としてるから彼女が不安を感じているのだとすれば、なるほど合点がいく。

何気なく玲那を見ると、玲那も同じように桃弥とうやを見詰めていた。すがるようなその目を見てしまったら、途端に腹が据わった気がした。

『そうだ。たとえ僕と先生の気持ちがどうであっても、別に今すぐお付き合いしなきゃいけないとかそういうことじゃない筈だ。あくまで様子を見て状況が許すようだったらでいいじゃないか』

そして、桃弥とうやは言った。

「宿角先生…僕はどうやら、あなたのことが好きになってしまったみたいです。お付き合いしてくださいとは、先生の方のお気持ちもあるでしょうから今はまだ言いません。ただ、僕の気持ちとしてはそうだということです」

びしょ濡れで裸の真猫まなに抱きつかれた状態で言うようなことではなかったのかもしれないが、玲那に促されてではあったが、それでも桃弥とうやははっきりとそう言った。

それは、他人との関わりを避けてきた彼にとっては大変に勇気のいることだっただろう。他人にとってはどうということもないものであっても、人によってはその程度のことが非常に困難な場合もある。

彼にとってのそれは、まさに一世一代のことなのだった。

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