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ケーキ
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真猫はそもそもクリスマスというものを理解していないようなので、プレゼントは用意していなかった。
それよりは、ツリーの飾りを弄って遊ぶ方が面白いらしい。
とは言えせっかくなのでケーキもハウスキーパーが用意してくれたものを出すと、いつものようにスプーンを鷲掴みにして食べた。
やはり甘いものはそれなりに好きなのか、がつがつと夢中で口に運んでいた。桃弥も一応は一切れもらって食べたが、残りは真猫が一人で全部食べ切ってしまった。
その後はさすがに食事に手を付けなかったものの、桃弥も煩いことは言わず好きにさせた。
何もかもをきっちりと決められたとおりにさせることはない。そもそも彼女にそれができないことは十分に予測できていた。なぜなら、桃弥自身が完璧ではないからだ。自分が完璧ではないのに相手に完璧を求めるのはおかしいと彼は思っていた。
『真猫ができる範囲でやってもらえたらいい』
そんな風に思っていた。
自分にできないことを他人に無理にやらせようとはしないのが彼だった。同時に、できることをやらせないということもなかったが。
だからハウスキーパーを雇っているのだ。彼にはできないことができるからその仕事をしているのだろうということで。
彼は基本的に、一事が万事そういう考え方をする人間だった。
だから、『できないことも努力と根性があれば成し遂げられる!』という今の社会に適応できなくて世捨て人のような生き方を選んだ。
そんな自分が何故、真猫に対して偉そうに『ちゃんとしろ』などと言えるのか。
言えるはずがない。
彼女には、他人を傷付けるような真似さえしないでいてくれればよかった。それ以外は望まない。そして、彼女がイライラして他人を傷付けたりしてないでいられるように、<穏やかな暮らしを提供する>というのが、桃弥にできることだった。故にそうする。
それだけのことである。
今の世の中は、そんな彼のやり方を認めてはくれないだろう。『そんなことで子供がまともに育つ訳がない!』と決めつけて批判するだろう。
しかし彼は、そういう世間の<雑音>を受け流すことができる人間でもあった。それが真猫にとって幸運だった。
真猫も、自分から他人を傷付けたりはしない。攻撃的に接せられたら身を守ろうともするが、そうでなければ自分から攻撃的になる理由がなかった。
「真猫にとって人間って何かな?」
一緒に風呂に入った時に、桃弥は真猫にそう問い掛けてみた。
無論、彼女がその問いを理解し応えてくれることを期待した訳じゃない。ただその問いを口にしてみたかっただけだ。
「……?」
真猫は小首をかしげ、ただ彼を見詰めていただけなのだった。
それよりは、ツリーの飾りを弄って遊ぶ方が面白いらしい。
とは言えせっかくなのでケーキもハウスキーパーが用意してくれたものを出すと、いつものようにスプーンを鷲掴みにして食べた。
やはり甘いものはそれなりに好きなのか、がつがつと夢中で口に運んでいた。桃弥も一応は一切れもらって食べたが、残りは真猫が一人で全部食べ切ってしまった。
その後はさすがに食事に手を付けなかったものの、桃弥も煩いことは言わず好きにさせた。
何もかもをきっちりと決められたとおりにさせることはない。そもそも彼女にそれができないことは十分に予測できていた。なぜなら、桃弥自身が完璧ではないからだ。自分が完璧ではないのに相手に完璧を求めるのはおかしいと彼は思っていた。
『真猫ができる範囲でやってもらえたらいい』
そんな風に思っていた。
自分にできないことを他人に無理にやらせようとはしないのが彼だった。同時に、できることをやらせないということもなかったが。
だからハウスキーパーを雇っているのだ。彼にはできないことができるからその仕事をしているのだろうということで。
彼は基本的に、一事が万事そういう考え方をする人間だった。
だから、『できないことも努力と根性があれば成し遂げられる!』という今の社会に適応できなくて世捨て人のような生き方を選んだ。
そんな自分が何故、真猫に対して偉そうに『ちゃんとしろ』などと言えるのか。
言えるはずがない。
彼女には、他人を傷付けるような真似さえしないでいてくれればよかった。それ以外は望まない。そして、彼女がイライラして他人を傷付けたりしてないでいられるように、<穏やかな暮らしを提供する>というのが、桃弥にできることだった。故にそうする。
それだけのことである。
今の世の中は、そんな彼のやり方を認めてはくれないだろう。『そんなことで子供がまともに育つ訳がない!』と決めつけて批判するだろう。
しかし彼は、そういう世間の<雑音>を受け流すことができる人間でもあった。それが真猫にとって幸運だった。
真猫も、自分から他人を傷付けたりはしない。攻撃的に接せられたら身を守ろうともするが、そうでなければ自分から攻撃的になる理由がなかった。
「真猫にとって人間って何かな?」
一緒に風呂に入った時に、桃弥は真猫にそう問い掛けてみた。
無論、彼女がその問いを理解し応えてくれることを期待した訳じゃない。ただその問いを口にしてみたかっただけだ。
「……?」
真猫は小首をかしげ、ただ彼を見詰めていただけなのだった。
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