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彼女の夏休み

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宿角玲那すくすみれいなの苦労が実を結び、彼女は無事初めての水泳の授業を終えることができた。しかも彼女は、

「はい、時間です。上がってください」

と教師が言ったことに対して、不満そうな顔をしてみせたのだった。どうやらプール遊びが気に入ったらしい。

そんな真猫まなに対して玲那は丁寧に話しかけた。

「明後日にまたプールがあるから、その時にね」

すると真猫まなはまだ少し不満そうにはしつつも、素直に従った。精神的に落ち着いているから、相手の話を聞くだけの余裕があるのだろう。

たったそれだけのことだったが、彼女が玲那の言うことに従ったというのは非常に大きな意味を持っていた。真猫まなも、家族である桃弥とうや以外の人間の指示に従うことができるという意味で。

しかし、プールで泳いだことで強い睡魔が襲ってきたのか、その後の授業はカクンカクンと頭が揺れて目の焦点も合わず、勉強どころではなかったが。

それでも一応、給食は食べて帰った。給食の時間までは学校にいられるようになっていたのである。

なお、真猫まなには、好き嫌いは基本的に無かった。出されたものは大抵食べた。デザートに出されたブドウは皮ごと食べたりして、周囲の人間を慌てさせたりもした。まあその辺は、味や食感に違いができるというだけで、衛生上の問題はなかったのだが。

そんな風に概ね順調なまま、夏休みを迎えることができた。

もっとも、生徒は休みでも教師も休みになる訳ではない。

養護教諭は教科を担当する他の教師とは仕事内容は若干異なるが、平日は当然、夏休み以外の日と同じように出勤する。しかも、本来なら保健室に常駐していることの多い他の養護教諭とは必要な仕事が違っていた玲那はその立場を活かし、真猫まなの為に特別なスケジュールを組んだ。

「授業のコマ数を確保しないといけませんので、夏休みの間にも、午前の二時間だけ、お時間をいただけますでしょうか」

と、桃弥とうやに申し出る。

そう、夏休みの間も、午前の二時間だけだが学校に来てもらって授業を行うことにしたのである。

厳密に言うと玲那は立場上、にこやか学級(=特別支援学級)を担当している教師の補助役でしかなく、真猫まなに対して行っているのも、一応は、授業のコマ数に数えられるようにはなっているものの、内容については、当然のことながら本来のカリキュラムではない。あくまで真猫まなの為だけの例外的な対応だった。なにしろ彼女は文字すら書けないのだ。

『文字を書けるようになることも諦めないといけないかもしれませんが、それでも』

それでも少しでも人間社会に馴染めるようにと、玲那は努力を続けたかったのだった。

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