ネコナマナ ～マナちゃんのニャオンな日常～

人形作り

彼の人形作りの技術は、基本的に独学で身に付けたものだった。

手に入れた人形を解体しその構造や材質を調べたりしたこともあったが、あくまで参考にした程度のことでしかなく、誰かに教わったことはない。その為に、工業的な見地からすると他の人形とは微妙に規格が合わず汎用性は低かったのだが、彼の人形を求める人間はあくまで＜桃里とうりの人形＞だから欲するのであって、髪型を変えたり服を替えたり以上のカスタマイズを行うことは、ファンの間ではむしろ邪道とされていた。

これは、同じく人気作家の神玖羅かみくらの人形のファンにも見られた心理だった。それに比べれば山下典膳やまもとてんぜんの人形は、規格そのものも、工業的に作られている人形のものに準じていて幅広い層に愛されているとも言える。

つまり、桃里とうりと神玖羅かみくらの人形は、特に神玖羅かみくらの人形は、コアなファンに強い支持を受けていると言えばいいだろうか。なにしろ、桃里とうりのそれは誰の目にも『可愛らしい』ものだったが、神玖羅かみくらの人形は恐ろし気な表情で、人を睨み付けてくる印象のある、好き嫌いははっきりと分かれるタイプのそれだったからだ。

もっとも、そういう話すら彼にとっては些細なことでしかなかったようだ。

そして今、桃弥とうやは次の人形作りに取り掛かっていた。作業を始めれば集中しすぎて一日全く食事もとらないことがあったが、真猫まなを引き取ってからはさすがにそういうわけにもいかず、作業台の正面にスマホを置き、アラームで時間を通知するようにしていた。

リビングの隅、ちょうど彼女がうずくまって寝ているところとは反対の位置に彼の作業台はあった。一晩中作業を続け、夕方の六時半にスマホのアラームが騒々しく鳴り響いた。

「ああ、もうこんな時間か」

ハッと我に返るように気付いた彼は作業を中断し、冷蔵庫からハウスキーパーが用意してくれていたオムライスを取り出してレンジで温める。

すると、その気配を察したのか、どこからともなく裸のままの真猫まなが現れて、テーブルに着いた。食事だというのは分かっているらしい。

やっぱり服さえ着ようとしないし、彼の方も何も言わないけれど、当たり前のように、彼の方は焼き魚と味噌汁をおかずにという、とても7LDKの注文住宅を一括即金で買えるような資産家とは思えない質素な内容ではあったが、彼女と一緒に夕食をとったのだった。