獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

あくまで利己主義的な合理性を前提とした

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私が少佐の子供を生めば、その子はここで生きていくことになるんです。この、<文明の利器>と呼べるものがほとんどない、娯楽用のコンテンツもネットに繋がる端末もない、死が隣り合わせのここで、です。

地球人社会を知った上で生まれてくるはずの子供に、

『ここに生まれてきたいか?』

と問い掛けたら、

『生まれてきたい!』

と応えると思いますか? あなたはここに生まれてきたいですか? 

『そんなところで生きていくとか、無理!』

などとおっしゃるなら、子供が生まれてくる前にちゃんと本人に承諾が取れてるかどうかなんて分かるでしょう? そんなもの、取ってるはずがないじゃないですか。

だから私は、せめてその子が、

『生まれてきたくなんてなかった!!』

なんて思わずに済むようにしてあげたいんですよ。他の子達とは違うからってイジメられたりしないようにしたいんです。

幸い、ここにはまだそういう感覚はありません。むしろ子供は大切にされるんです。

<大いなる存在からの授かりもの>

として。なのに地球人はいつからその認識を失ったんですか? 生まれたばかりの子供達はよく亡くなるから、神様が連れ戻したりしないように、不潔だったり不吉だったりする名前を付けたりする習慣も、世界各地であったそうですね?

つまりそれだけ大切にしようとしてたんじゃないですか。なのにいつから、他所の子供をイジメたり、

『生まれてきたのが間違いだった』

とか、他所の子供に対して言うようになったんですか? それをおかしいとは思わないんですか? <陰謀論>なんかに拘泥する前に気付くべきことがあるでしょう?

私はそのことを言ってるだけですよ。そして自分自身に言い聞かせてる。ここの社会が、地球人社会と同じ道を歩まないように、

『他者の価値を勝手に決めてしまう』

ことがないように、

『他者の命を蔑ろにする』

ことがないように、

『神仏に責任を擦り付けて自身の悪行を正当化する』

ことがないように、それらに気を付けていかなければいけないと思っているだけです。すでにそうなってしまってから改めるのは大変難しいですから、そうじゃない今のうちにあらかじめ対処しておかなくちゃと思っているだけです。

それは<綺麗事>なんかじゃありません。自分が幸せに生きられるように、自分の子供達が幸せに生きられるように、あくまで利己主義的な合理性を前提とした話なんです。

嫌なことなんて少ないに越したことないじゃないですか。

その当たり前のことを、どうしてしようとしないんですか?

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