獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
388 / 404
第四部

獣の顔

しおりを挟む
こうして、明確な<社会>というものがこの地に出来上がりつつあります。でも同時に、社会の仕組みができていくのをただ漫然と享受するだけでなく、誰もがそれに関わっていることを自覚してもらわなければいけません。

地球人社会では、一部の力を持った者達だけで勝手に決めて、それ以外の多くの人々はただそれを追認するだけでしかなかった。だから、<社会の仕組み>を知る者がいいようにそれを利用して搾取できるようなそれに作り変えていった。

誰もがどうやって社会が成り立っているのかを知り、自覚的に参加できるようにならないと、大多数の人間が搾取される側になってしまうでしょう。実際に地球ではそうなってしまった。

しかも一度そんな風に『飼い慣らされて』しまうと自分で考えるのが面倒になってしまって、誰かに丸投げする癖がついてしまう。そうですよね。確かに何も考えずに誰かにやってもらって自分はそれを利用してるだけなら楽ですからね。

でもそれ、<家畜>と何が違うんですか? 社会の仕組みを作る側が自分達に都合のいい仕組みを作ってその中で飼い慣らされて搾取される。そのまま<家畜>じゃないですか。

なのに、あとになって、

『自分達は搾取されている!!』

とか騒いでも、今さら社会の仕組みを変えるなんて、そうそうできることじゃありませんよね?

『目上の人は敬え』

と唱えるのもいいですけど、その<目上の人>が果たして何をやっているのか、ちゃんと見てるんですか? <目上の人>というだけで敬わなくちゃいけないなんて、露骨に、

『お前らは何も考えるな。こっちにただ従っていればいい』

って言ってるだけじゃないですか。敬ってもらいたいなら<敬われる人>になるのが先でしょう? ただ狡いだけの人を目上というだけで敬えなんて、心底狡いですよね?

だからこそ少佐は、徹底的に様々なことをおさ達と話し合って、その上でそれぞれの集落の人達にも、自分達が何をしようとしているのかを周知して、ちゃんと分かってもらおうとしてるんですよ。何一つ包み隠すことなく。

その結晶の一つが、この<対ゴヘノヘ用決戦兵器二号機>と言えるでしょう。

「震電も、お手伝いありがとう」

「えへへ♡」

私が伍長に抱かれた震電を労うと、彼女は嬉しそうに笑ってくれました。目が見えない彼女には相手の表情も見えていないはずなのに、ちゃんと笑顔を見せてくれるんです。嬉しい時には自然と表情筋が緩んでそういう表情になるんでしょうね。

まあ、基本的には<獣の顔>なので、地球人のそれに比べるとちょっと怖かったりもしますけど。

ああでも、震電のそれは可愛いですよ。

しおりを挟む

処理中です...