獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

<幼児期>というものが存在しない

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だからこそ、クレアは他の獣人達とも違います。私や少佐や伍長は、元の人間としての記憶そのものが再現されているため、おそらく脳の構造そのものが再現されているのだろうと推測されています。でも、クレアは、外見こそは私達の元仲間だった<クラレス・トリスティア>に似たそれが再現されながらも、<猿人>とでも称すべき肉体を持ち、記憶もここまでのところクラレスのそれは一切、思い出せていません。

ゆえに彼女には、<幼児期>というものが存在しないんです。この世に生じた時点ですでに<成体おとな>と言える肉体を持ち、脳の構造も、それに準じたものであると推察されます。だから幼児期健忘とは関係なく、彼女には元々、幼児期の記憶そのものが存在していない。だからそのままでは子育てができない。どうしていいか彼女には見当もつかない。

伍長はそれを承知しているのでしょう。だから彼女にそこまでのことを望まないのでしょうね。

ないものはないんです。最初から。ゆえに努力とかそんなおためごかしは通用しない。ただ、同じ<人間>としての接し方なら、伍長や私や少佐から学び取っている。それを、<小さな人間>に対するそれとして、震電に触れることでアップデートしていってるところでしょう。

正直、震電が成長するまでには間に合わないかもしれませんが、今後も乳幼児に関わることはあるでしょうから、その時に役立てられればいい。

なお、地球人類はかつて、

『子供は人間じゃない』

と考えていたこともあったらしいですが、とんでもない錯誤ですね。私も看護師として子供とは触れ合うこともありましたが、子供はれっきとした<人間>ですよ。人間以外のものでは有り得ない。そもそも<大人>と称している人達自身が下手したら子供以下の物の考え方しかできないのもいるんですから、ただの<経験値の差>でしかありません。

『未熟だから大人と同じことができない』

それだけなんです。

『躾けることで人間にしていく』

とか、おこがましいにもほどがある。そんな驕れるほど大人なんて大した生き物じゃありませんよ。自分が大人と呼ばれる年齢になればこそそう感じますね。

人間の子供は生まれたその瞬間から人間なんです。前にも言ったかもしれませんが、人間は獣や家畜を生みません。生まれたのが獣や家畜だと言うのなら、その親自身が獣や家畜なんです。人間ぶって人間の社会に紛れ込まないでください。

正直、そう思いますね。

軍人である私がそんなことを公に発信したら炎上必至ですけど。

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