獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

異常を察知するため

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そうして毎日のように震電を連れて現場に訪れた伍長は、彼女を抱いてその場を歩きます。彼女の耳でも異常を察知するためです。

こんな、見た目には三歳にもなってないとしか見えないような子供に頼らないといけないのは情けない限りですが、<非破壊検査>のための検査器具やノウハウがまだまだ十分でないここでは、震電の能力も役立てていかないといけない。

そういう仕組みが不十分な分を、獣人達の頑健な体が補ってくれてはいるものの、<ゴヘノヘ神輿>の建造の際にも高所から転落した山羊人やぎじんが平然としていたように多少の事故があっても彼ら彼女らの体は受け止めてくれるものの、だからといってそれに頼ってばかりではいられません。何より限度というものがあります。彼ら彼女らの体は決して無敵ではないんです。

その危険を減らすためにも震電を頼りたい。

「ありがとう、震電」

私がお礼を口にすると、彼女は、

「きゃはは♡」

嬉しそうに笑顔になってくれました。こうやって労ってもらえることの嬉しさをちゃんと彼女にも知っていてもらいたいと思います。それによって彼女も、他の誰かを労えるようになっていくんですから。

労ってもらったこともない人が他者を労えるようになるというのは、いささかファンタジーに過ぎるでしょう。私もそれを忘れないようにしなくてはと心に刻みます。自分が<親>になった時のために。

地球人の親は、かつて、ロクに何の予備知識も経験もないままいきなり親になることが多かったと聞きます。今ではそのための講習も、公的に行われていて、希望すれば誰でも受講できます。

一方、ここの獣人達は、うっすらとではありますが、ほとんど赤ん坊だった頃のことさえ覚えていたりするんだそうです。だから、親にしてもらったことを、自分が親になった時にもすればいいだけで。

幼かった頃のことを思い出せなくなる<幼児期健忘>は人間ではよく知られた症状ですが、これは脳の発達に伴い、古いシステムで構築された記憶にはアクセスしづらくなることで起こると言われています。なので、地球人ほどは脳が発達していない獣人達は、乳幼児の頃に経験し記憶したものについても、おぼろげながら思い出せるということなのかもしれませんね。さすがに新生児の頃のことは思い出せないそうですけど。

けれど、まだおっぱいを飲んでいた頃の記憶が一部でも思い出せるなら、子供の育て方も、その時の記憶を頼りに再構成していけば済むのかもしれません。

だからこそ、教わらなくても子供が育てられるのでしょうか。

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