獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

ソウルフード

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月日は流れ、春が来ました。と言っても、この辺りはそんなに極端に気候が変わらないので、冬の間も息が白くなる程度ですが。雪もこれまではほとんど降ったことがありません。ちらつくくらいはあっても、積もるほどじゃなくて。それでも、生身の地球人が薄着で外で寝たら凍死する危険性は高いでしょうが。

そして、ラレアトの仲間達が戻ってくる頃です。コミンも順調に育ってきてますし。

けれどもう、ラレアトは、

「私の家はここだから」

と言って、集落には帰らないと決めたそうです。決して仲間達と縁を切ったわけではありませんけど、あくまで<巣立ち>という形ですけど。

これについても、少佐がおさと話をしてくれていました。お互いに顔を合わせると感情的になってしまう可能性もあるので、少佐を仲介人として話をしたのです。けれどそれ自体、ラレアトが自ら『コミンを食べなくても大丈夫』というのを証明してみせたから。

でも、それでいて、

「美味しい……!」

育ってきたコミンを採ってきて調理したものを口にすると、素直にそう言えました。彼女達にとってコミンはいわば<ソウルフード>。記憶の深いところに沁みついているんでしょう。

<日本人にとっての米>

みたいなものでしょうか。少佐も伍長も、

「たまに無性に食べたくなることはあるね」

「握り飯を腹いっぱい食いたいと思うことはあるよな。あと、味噌汁」

そんなことを。私としては正直理解できないですが、たまにハンバーガーやホットドッグを無性に食べたくなることは確かにあります。<ソウルフード>というほどではないと思いますが。

いずれにせよ、ラレアトは穏当に彼女の集落から離れていることはできていますね。私達としてもホッとします。

すると、ラレアトの仲間達も、<対ゴヘノヘ用決戦兵器二号機>の設計に参加します。だけどそうなると、

「ココハ、コウシタホウガ、イインジャ、ナイカ?」

的なことを言いだす人がいて、

「待ってくれ、そこはもう俺達で散々、検討したところなんだ」

ザフリが困惑した様子で。けれど、私は、

「では、実際に試作してみましょう」

と提案。新しく加わった兎人とじんの職人の意見を取り入れた試作品を作ってみると、

「ア…ソウイウコトカ……」

納得してもらえました。確かに二度手間ではありますが、だからといって一方的に抑えつけるようなことをしていては反発を招くだけです。時間を掛けてでもきちんと理解と納得を得られるようにすることが大事なんです。

それに、新しい意見の中にも有益なものはあり、小変更を加えることにもなったりと。

そういうことも確かにあります。

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