獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

救う価値なし

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『救う価値なし』

軍人が市民のことをそんな風に思ってると知られたら、それこそ大炎上だったでしょう。特に、

<日がな一日、他者を罵り続けてる人達>

は、

『絶好のサンドバッグを見付けた』

とばかりに攻撃してくるに違いありません。また、日頃から軍などに対して抗議行動をしているような<活動家>達も好機とばかりに、

『やはり軍人なんてこんなものだ!』

と生き生きするでしょうね。

こんな人達のために犠牲になるとか、納得できますか? 少なくとも私は納得なんかできませんよ。ロボットはそんな人達でも無条件に守ってくれますけどね。

でも、<人間>には無理です。だから、

『世界のために犠牲になれ!』

と言われた方がそれに反発したって、親しい人が、

『こんな世界を救うために犠牲に差し出すなんて嫌だ』

って考えて行動したって、何にも不思議じゃないです。

ゆえに、

『他者に対して攻撃的に振る舞わない』

というのは、自分自身の安全保障上、意味のあることなんです。特に、理不尽に他者に攻撃的に振る舞うのは、間違いなく自分自身にとって不利に働く。

なるほど、自分と同じように考える人の尻馬に乗って誰かを罵るのは、気分が高揚するかもしれません。自分が正しいことをしているような気分になれるかもしれません。でもそんなものは、ただの幻です。なんの実態もなければ寄る辺もない、ただの<熱狂ブーム>でしかないんです。

冷めれば何も残らない。いえ、<残るもの>はありますか。

『理不尽に誰かを攻撃した』

という事実が残ります。そしてその行いを見ていた人が。

理不尽に誰かを攻撃するような人が、信頼されるわけないじゃないですか。自分はそんな人を信頼できるんですか? 自分と同じ考えでやってた相手のことは、その時点では信頼できても、何か他のことで意見が対立した時、その相手は確実に敵に回って攻撃してきますよ? 当たり前じゃないですか。敵認定されたんなら。

『敵はとにかく叩けばいい』

って考えてるのなら。

自分のやったことが自分に返ってくるなんて、普通のことですよ?

<誰かを理不尽に攻撃できる人間>

なんて、どうやって信頼すればいいんですか? いつ自分に牙を剥いてくるかも分からないのに。

私は、自分の両親を見ていてつくづくそれを実感しました。あの人達は、自身に都合のいい相手には愛想よくしてても、自身に都合の悪い相手には攻撃的なんです。そして、一瞬で掌を返してくる。

昨日まで親しくしていた相手を今日は激しく罵ってる。

こんな人、どこを信頼したらいいんですか?

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