獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

フェアプレー精神が常に通用する

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『配られたカードで何とかするしかない』

という言葉は、

『配られたカードの使い方をいつでも訊けばその場で教えてもらえる』

ということを意味してはいませんよ? だってそうでしょう? 勝負をする相手にとっては、カードの使い方も分からずにそのまま負けてくれる方が楽なんですから。

『ルールを知らない相手にその場できちんと<正しいルール>を『正しく』教えてくれるというフェアプレー精神が常に通用する』

とでも思ってるんですか? 配られたカードの使い方を教えるのは、その子供をこの世に送り出した親の役目ですよ?

伍長は震電をこの世に送り出した親じゃありませんけど、今の獣人の社会には<目が見えない子供>を育てていくノウハウがありません。だから震電を生んだ親が彼女の育児を放棄するのはやむを得ないことでもあります。

でも、伍長には、彼女を育てられる自信があった。もちろんこれまで目が見えない子供を育てた経験はないそうです。けれど、育児だけであればリータの際に経験もありますし、加えて、視覚にまったく頼れない暗闇でも獣蟲じゅうちゅうを容易く仕留められる能力が彼にはあって、<視力に頼らないスキル>を伍長は持ってるんです。だから挑むことができた。

私達が暮らしていた地球人社会では、子供を持つことを望む者に対して<親としてのノウハウ>を指導する制度もありましたし、場所によってはそれを義務化しているところもありました。

『配られたカードで何とかするしかない』

というのは、子供の側にだけ当てはまることじゃありません。それは当然、親の側にも当てはまるんです。

『自身がこの世に繰り出した子供の能力を見極め、それに適した生き方を教導する』

という意味でもあるんですよ?

私も、ここに暮らすことでそれを実感しました。

『配られたカードで何とかするしかない』という言葉は、親がそれを子供に一方的に押し付けて手を抜くためにあるのではないと、改めて理解できたんです。

地球人社会では、それを、親の側が自己弁護や責任回避のために使っていたことも少なくなかったみたいですけどね。それがいかに<甘え>であったのか、今ならよく分かります。

少佐との間に子供ができた時もそれをしっかりとわきまえないといけないと思いました。

<親>という立場は、子供に対してマウントを取るためにあるんじゃないんです。自分の勝手で子供をこの世に送り出した自らの責任と向き合うこともしない親がどうして子供に信頼され尊敬されると思えるんですか?

この世というのはそんなに甘くないですよ?

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