獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

育児休業

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こうして伍長は育児を、私はザフリ達と共に<対ゴヘノヘ用決戦兵器二号機>の設計を、少佐はこれまでと同じく各集落との折衝を、行います。

伍長のそれはある意味では<育児休業>なのですが、残念ながらその概念がない獣人達は入れ代わり立ち代わり伍長の下を訪れ、ある者は腕試しを、またある者は彼に気合いを入れてもらおうと平手打ちをもらいに来たりと、育児に集中させてもらえません。

けれど伍長は文句を言うでもなく、

「ちょっと待て。もうすぐ乳をあげ終わる」

あくまでも震電を優先しつつ、

「クレア、ちょっとの間、こいつを見ててくれ」

クレアにそう頼んで、自分を頼ってきた者達も疎かにしません。特に手合わせを申し込んできた者にはしっかりと胸を貸し、その上で容赦なく打ちのめします。

「どうした!? その程度か!?」

膝をつき自分を見上げる若い猪人ししじんを叱咤し、立ち上がってきた者にはとどめの一撃をくらわし、立ち上げれなかった者には、

「お前は体重移動がなってない。だから動きに無駄が多くて攻撃が繋がらねえ。てめえの腰の位置をもっと意識して相手に対して自分の力を乗せやすい動きを心掛けろ」

「お前は根本的にまだまだ体力が足りねえ。仕事に精を出して力を付けろ」

とそれぞれに対し適確なアドバイスを与えます。それを活かせる者は次には見違える動きを見せ、活かせない者は続けて何度でも胸を借りに来ます。身に付くまで何度でも。

成長の早さは人によって違います。私自身、決して軍人としての素養は高くなかった。何度も何度も挫けそうになりました。諦めるなら早いうちの方がいいと、他の道を目指せばいいと、教官は丁寧でありつつ厳しい訓練を課しつつ告げてくれました。そこで心折れる者は戦場には送り込めないからです。

私は幸か不幸かそこで心折れることなく持ちこたえられましたけど。ここで挫けて実家に戻れば両親にずっと馬鹿にされ続けるだろうと思ったからです。今から思えば別に実家になど返らずに他に就職してしまえばよかったのでしょうが、当時は精神的に両親に縛られていたんでしょうね。

けれど、私が諦めない限り見捨てることのなかった教官がいたからこそ踏みとどまれたというのもあったと思うのです。

もうその教官に挨拶に伺うこともできませんが、軍人である以上はもとよりその可能性が少なくないことは覚悟していましたので、それに対しての後悔はありません。

とにかく、伍長の在り方はその当時の教官を彷彿とさせて、彼の意外な一面も垣間見せてくれたのでした。

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