獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

デリカシーはない彼ですけど

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「おう、怖かったか。すまねえな。でも、こいつらも悪気はねえんだ。俺の顔に免じて許してやっちゃくれねえか」

メイミィとラレアトが無遠慮に顔を近付けたことで怯えて泣いてしまった震電をあやしながら伍長がそう話し掛けます、その声がまたひどく優しくて……

すると、

「ごめんなさい……」

メイミィとラレアトも声を揃えて謝りました。そんな二人に、私は、

「そうだね。赤ちゃんにとって<知らない人>は怖いものなんだよ。伍長は悪い人じゃなけど、メイミィもラレアトも、伍長のこと、ちょっと怖いでしょ? その伍長がいきなり顔を近付けてきたらビクッてなるでしょ? それと同じことなんだ」

穏やかに言い聞かせます。

「そっか…!」

「そうだよね!」

二人も納得してくれたようです。こうやって丁寧に穏当に諭していけばいいことです。

なるほどこれも、

『失敗を経験として活かして』

ということになるでしょう。大事なことだと思います。けれど、だからといってその一度の失敗で命を落とすようなら、それは<経験>にはなりません。

当たり前のことでしょう?

そんな、

<『一度の失敗で我が子を喪う』という失敗>

を繰り返し、それを経験として活かすからこそ、子供を守るための方策を考えてきたのではないですか? 物事は近視眼的な視点でのみ判断はできません。

文明や技術が発達し便利な社会になれば、なるほど危機対応能力が低下したりするかもしれません。けれど、それ自体が、

『便利な社会に適応していく』

ことじゃないんですか? それとも、今さら不便な生活ができるとでもおっしゃるのですか? 子供の間にいくら鍛えても大人になってから怠ければ見る影もなくなってしまうのは、分かり切ったことでしょう?

自分は便利な暮らしに甘んじておいて子供には厳しくとか、それ自体がただの甘えじゃありませんか。

伍長はそれをわきまえているだけなんです。

そうして伍長は、震電を連れて家に戻り、世話をします。クレアも手伝ってはくれるのですが、伍長ほどは、

<視力に頼らない戦い方>

が身に付いていないため、目が見えない震電の扱い方もちゃんと理解はできていません。なので、これからです。

伍長が震電の世話をしているのを見て学ぶという形で。

『女なら母性があるんだからできて当然』

とも、伍長は言いません。デリカシーはない彼ですけど、ただの軽口で済む話と、命に係わる話とは分けて考えることができるんです。

ずっといっしょによろずやを営んできて、ようやく彼のことが分かってきた気がします。

それでも、本音では好きなタイプじゃないですけどね!

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