獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第四部

一度の<失敗>が致命傷になっては意味がない

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こうしてわずか三日で、伍長とクレアと震電の家は完成しました。まあ、<家>と言うよりは<掘っ立て小屋>に近い品質ではありますが。

実際に暮らしてみてそれで何が必要かを確かめてそこから改めて改修を加えていくことになるでしょう。今の時点では、家の躯体は猪人ししじんのそれ。内装は兎人とじん山羊人やぎじんのそれのミックスという感じですか。

床も丸太を並べたものが基礎になってますが、その上に乾燥させて煙で燻した草を敷き詰め、さらにやっぱり煙で燻した獣の毛皮を敷いたものです。見た目は必ずしも綺麗とは言い難いですが、カーペットを敷いた床とそう大差ないので、案外、快適です。

クッション性もそれなりにあるので、歩き出した震電が転んで頭を打っても致命傷にはならないでしょうね。

なお、地球人の中には、

『子供は失敗を重ね痛みを知って成長していくものだ』

と主張する人が今なおいますが、確かに失敗を重ねて痛みを知って成長していくのは事実ですが、その一度の<失敗>が致命傷になっては意味がないんです。ここの獣人達でさえ、子供は守ろうとします。決して、自分が子供を守る手間を惜しむ言い訳に、『子供は失敗を重ね痛みを知って成長していくものだ』などという詭弁は用いません。

猪人ししじんでさえ、十分に力をつけていない子供のことはとても大切にします。無意味に危険に曝すようなこともしません。

だから、ことさら『子供は失敗を重ね痛みを知って成長していくものだ』などと主張する人は、自身が手を抜きたい言い訳にそれを使っているだけなんでしょうね。

伍長ですら、

「あ? 失敗を経験にできるなんてのは、生きててこその話じゃねえか。一発死するような危険を回避しようとしねえのは、ただの<間抜け>ってんだ。ましてや親が子供を守ろうとしねえでそんな形で死なせるとか、それこそ怠慢だってんだよ」

とバッサリです。

しかも伍長は、実際に子供を亡くした親に対して面と向かってそんなことは言いません。ここでも、子供が亡くなる事故はある。そして子を亡くして悲嘆にくれる親に対して、

『お前がちゃんと見てないからだ』

なんて決して言わないんです。親に不手際があったとしても、『子を亡くす』という、途轍もない報いはすでに受けた。そんな親を、まるで水に落ちた犬を石で打つように追い打ちをかけることはしないんです。報いは受けてるんですから。

だからこそ伍長は獣人達から信頼されているんでしょうね。

そんな伍長だからこうやって家を建てるために皆が集まってくれるんだと感じます。

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