310 / 404
第四部
ザフリ
しおりを挟む
<ゴヘノヘ祭>での喧嘩神輿で破損した<対ゴヘノヘ用決戦兵器>の状態は、見た目以上に酷い有り様でした。伍長があの時点で勝敗が決したとして止めていなければそれこそ完全に倒壊していた可能性が高い。
「やはりこれは、一から作り直す方がいいだろうね」
現状を確認した少佐がそう告げます。
「ですね……」
私も正直な印象として口にしました。何しろ素人目に見ても、
『これを直すなんて無理では?』
と思ってしまうような惨状でしたから。すると、
「次はオレにまかせてくれないカ?」
私達に声を掛けてきたのは、山羊人の青年<ザフリ>でした。
ザフリは、トームの幼馴染で、対ゴヘノヘ戦の際には長の意向に逆らって作戦に参加してくれた雄の一人です。
彼は、トームがノーラを庇い番ったからといってトームまで追放されることに納得いってなかった一人でもありました。けれどそれはあくまでトームに対してであって、ノーラのことは、
『切り捨てるべき!』
と考えてもいたそうですが。でもそれ自体も、当時の判断としては何も不自然じゃなかったでしょう。自分のことさえ自分じゃまともにできないノーラについては確かに足手まといだったでしょうから。その決断そのものを私も少佐も否定はしていません。むしろノーラを庇って連れ帰った伍長の判断こそが無茶だったんです。
とは言え、伍長の判断も、結果としては間違っていなかった。トームとノーラは結ばれ、レータが生まれ、レータも皆に愛されすくすくと育っています。ただ、その判断が結果として間違いにならなかったのは、伍長自身の努力もあってでしょうけど。
自分では自分のこともできないノーラを連れ帰り、彼女の面倒を一番見ていたのは実は伍長なんです。ノーラのための部屋を作ったのも伍長ですし、ノーラの面倒を見るために必要な手順を踏んだのも伍長でした。
ノーラ自身と接するのは私が多く担当しましたが、それは同じ<雌>だからということもあってのこと。その一方で、彼はノーラが暮らしやすい環境を作ることに尽力してくれた。
それも事実です。その事実は認めないといけないと思います。
さらに、ノーラを伍長が支えてくれたのと同じく、ザフリ達がトームを支えてくれたのも事実。結果としてトームは集落を追放はされたけど、完全に縁が切れてしまったわけでもない。
ノーラやトームにとって一から十まで都合のいい状況にはならなくても、それはむしろ当然ですね。
<特定の誰かにとってだけ都合のいい社会>
なんてものは存在しないんですから。
「やはりこれは、一から作り直す方がいいだろうね」
現状を確認した少佐がそう告げます。
「ですね……」
私も正直な印象として口にしました。何しろ素人目に見ても、
『これを直すなんて無理では?』
と思ってしまうような惨状でしたから。すると、
「次はオレにまかせてくれないカ?」
私達に声を掛けてきたのは、山羊人の青年<ザフリ>でした。
ザフリは、トームの幼馴染で、対ゴヘノヘ戦の際には長の意向に逆らって作戦に参加してくれた雄の一人です。
彼は、トームがノーラを庇い番ったからといってトームまで追放されることに納得いってなかった一人でもありました。けれどそれはあくまでトームに対してであって、ノーラのことは、
『切り捨てるべき!』
と考えてもいたそうですが。でもそれ自体も、当時の判断としては何も不自然じゃなかったでしょう。自分のことさえ自分じゃまともにできないノーラについては確かに足手まといだったでしょうから。その決断そのものを私も少佐も否定はしていません。むしろノーラを庇って連れ帰った伍長の判断こそが無茶だったんです。
とは言え、伍長の判断も、結果としては間違っていなかった。トームとノーラは結ばれ、レータが生まれ、レータも皆に愛されすくすくと育っています。ただ、その判断が結果として間違いにならなかったのは、伍長自身の努力もあってでしょうけど。
自分では自分のこともできないノーラを連れ帰り、彼女の面倒を一番見ていたのは実は伍長なんです。ノーラのための部屋を作ったのも伍長ですし、ノーラの面倒を見るために必要な手順を踏んだのも伍長でした。
ノーラ自身と接するのは私が多く担当しましたが、それは同じ<雌>だからということもあってのこと。その一方で、彼はノーラが暮らしやすい環境を作ることに尽力してくれた。
それも事実です。その事実は認めないといけないと思います。
さらに、ノーラを伍長が支えてくれたのと同じく、ザフリ達がトームを支えてくれたのも事実。結果としてトームは集落を追放はされたけど、完全に縁が切れてしまったわけでもない。
ノーラやトームにとって一から十まで都合のいい状況にはならなくても、それはむしろ当然ですね。
<特定の誰かにとってだけ都合のいい社会>
なんてものは存在しないんですから。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

私が一番嫌いな言葉。それは、番です!
水無月あん
恋愛
獣人と人が住む国で、ララベルが一番嫌う言葉、それは番。というのも、大好きな親戚のミナリア姉様が結婚相手の王子に、「番が現れた」という理由で結婚をとりやめられたから。それからというのも、番という言葉が一番嫌いになったララベル。そんなララベルを大切に囲い込むのが幼馴染のルーファス。ルーファスは竜の獣人だけれど、番は現れるのか……?
色々鈍いヒロインと、溺愛する幼馴染のお話です。
いつもながらご都合主義で、ゆるい設定です。お気軽に読んでくださったら幸いです。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

【完結】三丁目の大賢者さん〜異世界の大賢者ルーラーは、地球でのんびり過ごしたい〜
呑兵衛和尚
ファンタジー
異世界から放逐された大賢者ルーラー・ヴァンキッシュ。
彼は日本のとある場所で、のんびりと店を開いている。
店の名前は『魔導レンタルショップ・オールレント』。
さまざまな魔導具のレンタルや、販売を行なっている。
今日も、悩める客が店の扉を開きます。
常連さんや隣町の意地悪ジィさん、そしてさまざまなお客さんの交わる、ほのぼのストーリーです。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。
ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。
それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。
これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ)
よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m
hotランキング23位(18日11時時点)
本当にありがとうございます
誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~
せんぽー
ファンタジー
エリートが集うゼルコバ魔法学園。
この学園には、筆記試験、技術試験の合計点が基準に2回満たなかった場合、強制退学になってしまうという決まりがある。
技術において落ちこぼれのネルは、筆記試験でなんとか点数を取り、高等部まで進学していた。
しかし、高等部に上がって初めての期末テスト。ネルの点数は基準点以下になっていた。
「お兄様、あのお水に何が入っていたか知っていますか? 私特製の『特定記憶抹消薬』が入っていたんですよ? お気づきになりませんでした?」
義妹にはめられ裏切られ、強制退学をくらってしまい、学園を追い出されたネル。
彼はトランク1つ手に持ち、フラフラと街を歩いていると、ある女性から宝石を渡される。彼はそれを手にすると、気を失ってしまった。目を覚ますと広がっていたのは、見知らぬ地。赤い空、不気味な森があった。
「ここは………裏世界?」
裏世界。世間では幻とされる世界。
そこへ行くには、自身のレベルを8000にするか、魔石オラクルを使い、大量の魔力を注ぎ込む方法2択。どちらの選択も、Lv.12のネルには到底無理なこと。
そのため裏世界の魔物はLv.8000ものばかり。即死間違いなしだ。
しかし、なぜか彼は、平気に裏世界の魔物を倒せていた。
これは落ちこぼれ扱いされていた少年が2つの世界で最強になる話。
※更新は基本夜です。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる