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第三部
人間の戦い方
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ここまで、要所要所で進行役として顔を出すだけだった少佐が、各集落の長達を、
「わざわざご足労いただきまして、誠にありがとうございました」
と、丁寧に労っていました。そういうところが、少佐の少佐たるゆえんですね。
すると、兎人の長が、それも、ラレアトの集落の長が、私達の方に歩み寄ってきて。
「……ラレアト…」
ラレアトを真っ直ぐに見つめました。
「ハイ…!」
ラレアトも背筋を伸ばして改まって。ここで不遜な態度を取らないくらいには、彼女も精神的に安定してきたんだと分かり、私もメイミィもホッとします。そして、長は、
「コミン、イガイ、ニモ、ウマイ、モノ、タクサン、アル。ワカッタ。オマエ、ニ、ヤクメ、アタエル。ワレラ、ノ、イキカタ、デキルコト、サグレ」
と告げたんです。ラレアトに。それは、
『これからの兎人の生き方の可能性を探れ』
というものでした。
『今までの兎人の伝統を破っていい』
みたいな話じゃなくて、あくまでも、
『兎人としての新しい在り方を探る役目を与える』
ってことなんです。
「……」
唖然としてるラレアトに、私は、
「ラレアト。あなたに重大な仕事が与えられたんだよ。今までの伝統とどう向き合っていくのか、それを判断するための情報を集めるっていう、すごく大事な仕事が」
補足するようにそう説明しました。そこでようやく彼女も意味が沁み込んできたみたいで、
「ハイ! ガンバリマス!!」
長の前で両膝を着いて、祈るように手を組んで、応えました。
私が少佐を見ると、彼も、控えめに親指を上げて笑顔を向けてくれています。彼が、祭の間中、長達を歓待してくれて、たくさんの料理を味わってもらって、それまで長達が知らなかったものを、知らなかった可能性を、丁寧に説明してくれていたんです。
そう。勢いだけで力尽くで正当性を主張して突き進むだけが革新じゃない。地味でも、映像的に映えなくても、盛り上がらなくても、<折衝>というのはこういうことだと少佐は示してくれました。
私の役目は、ラレアトを支えること。それぞれが役割を分担し、確実に目標に向かって道筋を立てる。これが、
<人間の戦い方>
なんです。牙も爪も筋力も捨てて知能を磨いてきた人間の。
「よかったね、ラレアト」
メイミィも、ラレアトを労ってくれます。そこでもう耐えきれなかったのか、ラレアトがボロボロと涙をこぼして、
「ウ……ウエ……エエエ~……!」
嗚咽を上げ始めました。心底ホッとしたんでしょう。
私も、メイミィも、少佐も、兎人の長も、そんな彼女をただ見守っていたのでした。
「わざわざご足労いただきまして、誠にありがとうございました」
と、丁寧に労っていました。そういうところが、少佐の少佐たるゆえんですね。
すると、兎人の長が、それも、ラレアトの集落の長が、私達の方に歩み寄ってきて。
「……ラレアト…」
ラレアトを真っ直ぐに見つめました。
「ハイ…!」
ラレアトも背筋を伸ばして改まって。ここで不遜な態度を取らないくらいには、彼女も精神的に安定してきたんだと分かり、私もメイミィもホッとします。そして、長は、
「コミン、イガイ、ニモ、ウマイ、モノ、タクサン、アル。ワカッタ。オマエ、ニ、ヤクメ、アタエル。ワレラ、ノ、イキカタ、デキルコト、サグレ」
と告げたんです。ラレアトに。それは、
『これからの兎人の生き方の可能性を探れ』
というものでした。
『今までの兎人の伝統を破っていい』
みたいな話じゃなくて、あくまでも、
『兎人としての新しい在り方を探る役目を与える』
ってことなんです。
「……」
唖然としてるラレアトに、私は、
「ラレアト。あなたに重大な仕事が与えられたんだよ。今までの伝統とどう向き合っていくのか、それを判断するための情報を集めるっていう、すごく大事な仕事が」
補足するようにそう説明しました。そこでようやく彼女も意味が沁み込んできたみたいで、
「ハイ! ガンバリマス!!」
長の前で両膝を着いて、祈るように手を組んで、応えました。
私が少佐を見ると、彼も、控えめに親指を上げて笑顔を向けてくれています。彼が、祭の間中、長達を歓待してくれて、たくさんの料理を味わってもらって、それまで長達が知らなかったものを、知らなかった可能性を、丁寧に説明してくれていたんです。
そう。勢いだけで力尽くで正当性を主張して突き進むだけが革新じゃない。地味でも、映像的に映えなくても、盛り上がらなくても、<折衝>というのはこういうことだと少佐は示してくれました。
私の役目は、ラレアトを支えること。それぞれが役割を分担し、確実に目標に向かって道筋を立てる。これが、
<人間の戦い方>
なんです。牙も爪も筋力も捨てて知能を磨いてきた人間の。
「よかったね、ラレアト」
メイミィも、ラレアトを労ってくれます。そこでもう耐えきれなかったのか、ラレアトがボロボロと涙をこぼして、
「ウ……ウエ……エエエ~……!」
嗚咽を上げ始めました。心底ホッとしたんでしょう。
私も、メイミィも、少佐も、兎人の長も、そんな彼女をただ見守っていたのでした。
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