獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
297 / 404
第三部

メンタルタフネス

しおりを挟む
ニャルソが私に言い寄ってきてそれを何とか凌ぐというのは、もはや<恒例行事>のようにもなってきていますね。これだけ拒絶されても懲りずに言い寄ってくる彼のメンタルタフネスぶりにはむしろ感心すらさせられますが。

ともあれ、今回もネルラのおかげで助かりました。同時に、

「ありがとう。私を守ってくれて」

メイミィとラレアトにも、感謝します。

「うん♡」

「アタリマエダヨ♡」

二人は自慢げに応えてくれました。その時のラレアトの様子も、以前のそれに戻っている印象です。結果的にどうなるかは今も分かりませんが、取り敢えずはホッとしました。

一方、そんな私達には構うことなく、舞台では、猪人ししじんによる<格闘トーナメント>が開催されていました。舞台の上には、参加者である猪人ししじん達が並び、実に暑苦しい光景が。筋肉と汗と獣臭の三重奏ですね。

それどころか、舞台から離れたところまで、熱線が届いてくるかのよう。

『暑苦しいわっ!!』

と声を上げたくなるのを我慢我慢。しかし、視線を逸らしても、そこかしこで猪人ししじんがお酒をかっくらって陽気に騒いでいるんです。で、

「ヤンノカ!?」

「オオッ!?」

などと、勝手に勝負を始める始末。でも他の獣人達も心得たもので、

「オ~!」

「ヤレヤレ~!」

距離を置いて取り囲んで即席の<舞台>を作って見物してる。

『ああもう! 戦いたいなら最初からトーナメントに参加しろ!!』

とは思うものの、実は猪人ししじんの集落において<予選>はすでに行われていて、トーナメントに参加してるのはその時点で<選ばれた者達>だったんですね。

で、<選ばれた者達>の中には、当然のようにブオゴの姿も。

しかし、予選には勝ち残れなかった者達も猪人ししじんとしての血は騒ぐので、こうして勝手に盛り上がる。

まったく、この脳筋共は……

ですが、あくまで猪人ししじん同士の間でのことなら、そんなに問題にはならないんでしょう。これがもし、他の獣人達にまでケンカを吹っ掛けるような形になれば、それは大問題ですけど。

そうですね。彼らには、<猪人ししじんとしての誇り>があります。自分達が生きるため、食べるために、弱い生き物を狩ることはあっても、

<強い相手と戦うという誇り>

を持っている間は、他の獣人達に対して横暴に振る舞うことはないでしょう。そう、<猪人ししじんとしての誇り>が大切にされている限りは、大丈夫なんだと思います。

けれど、もし、地球人が強大な武力をもって彼らを屈服させ、地球人の価値観を押し付け、<猪人ししじんとしての誇り>を損なわせるようなことがあれば、もしかすると、弱い相手にこそ居丈高になるような者達に変貌してしまうかもしれません。

私達はそんなことは望んでいません。

しおりを挟む

処理中です...