獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

敢えて変わらないという選択

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メリットデメリットについては、一面だけで語ることはできません。多面的に検討することが大事なんです。自分に理解できないからって全否定することは論理的じゃありません。

ラレアト達は、コミンを求めて集落を移動することを前提に、生活しています。これは、集落そのものを刷新し、老朽化することを回避する効果もあるそうです。同時に、集落を作るノウハウの継承と更新も兼ねているとのこと。

一つところに定住するということをしなかった彼女達にとっては、逆に、長期間同じところにとどまるためのノウハウがない。家は、遊牧民族のそれのように仮設であることが前提の作りになっているし、生活スタイルそのものが、そういうことを前提に出来上がっているんです。

ラレアト個人が生活スタイルを変えるのとはわけが違います。なので、いきなり、生活スタイルそのものを変化させるのは大きな困難が伴うでしょう。かつて地球でも、伝統的な暮らしをしていた小数民族に介入し一方的に新しい生活スタイルに変更させようとしていくつもの問題を生じさせたという事例がありました。そういう先例がある以上、私達は同じ轍を踏みたいとは思いません。

なにか命にもかかわるような瑕疵がない限り、

『敢えて変わらないという選択により平穏を保つ』

というのも、間違いなく<メリット>なんです。

でもそれが、個人の選択を狭めてしまうというのであれば、これもまた軋轢を生じさせる原因になるでしょう。全体の調和は守りつつ、敢えてそこから外の世界に飛び出していく個人の選択もまた、尊重されるべきなのでしょう。

今のラレアトのように。

そのための落としどころが求められています。

が、そういう個々のあれこれは関係なく、祭そのものはただ楽しめばいい。それも事実でしょう。

と、屋台巡りを楽しんでいた私の耳に、

「ビアンカぁ~♡」

甘ったるい、鼻にかかったような声。瞬間、私の背筋を走り抜ける悪寒。

「ニャルソ!?」

そう、ニャルソでした。彼が背後から私目掛けて走ってきたんです。すると、身構えた私と一緒に、

「ニャルソ!」

「ビアンカニ、チカヅクナ!」

メイミィとラレアトが私を守るように、彼の前に立ちはだかってくれました。

とは言え、二人に守ってもらっていてはさすがに情けないので、

「何の用?」

私が前に出ようとしても、メイミィとラレアトは、お互いの手を繋いで私を前に行かせない。

私をめぐってのライバルでもある二人ですけど、こういう時はすごく息が合うんですよね。

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