獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

<ゴヘノヘ祭>を開催します!

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「では、これより、<ゴヘノヘ祭>を開催します!」

「ウオーッ!」

何とも言えない高揚感に包まれた前夜を経て、祭当日。少佐の掛け声により、遂に祭が始まりました。

今日から三日間、ゴヘノヘの襲来によって命を落とした者達を悼みつつ、ゴヘノヘによる災禍を乗り越えて自分達が生を謳歌している事実に感謝し、かつ、いずれまた訪れるであろうゴヘノヘの脅威を伝え、それに備えることを忘れないための祭が。

「でも今は、楽しめばいいと思う」

少佐が言うように、過去を見て悲しんでばかりしても起こったことがなくなるわけじゃない以上は、自分が生きている現実を楽しめばいいと私も思います。

ただ、

「少佐~!」

少佐は、各集落のおさ達が一堂に会する場に出席するためにそちらに向かってしまい、私は笑顔で手を振る彼を見送るしかありませんでした。

私も、祭の間の警備の責任者を任されていますし。

「ビアンカ~、一緒にいこう♡」

「ビアンカ、タノシム♡」

メイミィとラレアトに同時に抱きつかれて、嬉しいけど、大変です。

とは言え、警備責任者として堂々と、<巡回>を口実に隅々まで祭を見て回れるのも事実。だとすれば、楽しんじゃった方が得策でしょう。

正直、人間社会でのお祭りよりも雑然とした印象のある祭会場とはいえ、むしろその混沌とした感じが<雰囲気>を醸し出してますね。

たくさんの屋台も並び、いい感じです。

早速、レギラとボゼルスの屋台で、それぞれ<野草炒め>と<トイラの蒸し焼き>をもらい、それを食べながら見回ります。屋台の多くは食べ物関係ですね。どうしてもまだ娯楽が少なく、食べることそのものが娯楽のような役割をしている世界だから、当然でしょうけど。

そして、獣人達がそれぞれ持ち寄ってくれた<食材>が、ここで役立つんです。様々な趣向を凝らした<料理>が振る舞われ、トイラを苦手としてたラレアトがすっかり<トイラの蒸し焼き>が好物の一つになったように、それまで知らなかった食べ方や、苦手だったものを美味しく食べる方法を学ぶ機会ともなることが期待されています。

実際、

「ナンダコレ! ウマイ!」

「コンナタベカタ、アッタノカ!」

そんな声があちこちから上がっていました。ボゼルスの<トイラの蒸し焼き>も、ラレアトがみんなに話して回っていたことで、彼女の集落の兎人とじん達も、恐る恐る食べてみて、

「オイシイ!」

「コレ、ホントニ、トイラ!?」

と、驚きの声を上げているのが何人もいたんです。しかも、

「コレナラ、コミン、ナクテモ、ヘイキ!」

と口にする者までいたのでした。

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