290 / 404
第三部
痛みを経て
しおりを挟む
自分が正しいと信じてきたことを疑うというのは、大変な苦痛を伴うことです。でも、人間は、少しずつだけどそれを行ってきた。何千年も、『正しい』と、『そうしなければいけない』と、盲目的に信じてきた迷信や因習を、一つずつ、覆してきた。だからこそ、今もなお宇宙に存在することができている。
迷信や因習は、それが実際に効果を発揮していた時と状況や背景が変わればただの害悪に堕ちる。社会基盤やリソースが不十分だった頃の<命の選別>は、『社会基盤やリソースが不十分』という背景があればこそ一定の合理性も見出すこともできる。
だけど、その<背景>そのものが変化しては、それが成立する前提そのものが失われるんです。なのにその事実を認めず、状況が変わったという現実を向き合うことなく、ただ、
『昔からそうだったから』
という思い込みだけで続けることは、ただ傷口を広げるだけなんです。
いわゆる<伝統芸能>と呼ばれるものであっても、実際には、各時代において状況に合わせて変化してきた。<女人禁制>とされる芸能なども、実は女性が参加していた時期があったりもする。ただ、その当時にはいろいろと都合の悪いこと、『風紀の乱れ』等の弊害があったことから禁じられたにすぎない。決して<高尚>な理由などではなく、ただその場しのぎの帳尻合わせでしかなかったりもしたんです。
なのにそれをありがたがるとか、おかしいとは思いませんか?
とは言え、<芸能>などについては生死に関わるようなことではないので、古い価値観を捨てられない人達についても蔑ろにすることも、『正しい』とは言い難い。なので、新しい形の芸能が立ち上げられたりもしました。二十一世紀中頃に新たに立ち上げられた<歌舞供者>は、女性は決して演者になれないとされる<歌舞伎>の伝統を守りつつ歌舞伎の道を目指す女性達の受け皿として発足、最初は『下品』『低俗』『性の商品化だ』などと揶揄されつつも、三十八世紀になっても存続し、すでに立派な<伝統芸能>となっているそうです。
逆に、『女性しか参加できない』とされていた<歌劇団>についても、それを目指す男性のための受け皿として<歌劇團>が発足。こちらもやはり<伝統芸能>となっています。
それぞれ、歌舞伎や歌劇を愛好していた人達の一部にとっては実に目障りで不快なものだったそうですが、その一方で、<歌舞供者>や<歌劇團>を立ち上げた側も多くの誹謗中傷や悪罵を曝されてきたと。
<目障りで不快という痛み>
<誹謗中傷や悪罵に曝される痛み>
というものを経て、どちらも成立したんです。
迷信や因習は、それが実際に効果を発揮していた時と状況や背景が変わればただの害悪に堕ちる。社会基盤やリソースが不十分だった頃の<命の選別>は、『社会基盤やリソースが不十分』という背景があればこそ一定の合理性も見出すこともできる。
だけど、その<背景>そのものが変化しては、それが成立する前提そのものが失われるんです。なのにその事実を認めず、状況が変わったという現実を向き合うことなく、ただ、
『昔からそうだったから』
という思い込みだけで続けることは、ただ傷口を広げるだけなんです。
いわゆる<伝統芸能>と呼ばれるものであっても、実際には、各時代において状況に合わせて変化してきた。<女人禁制>とされる芸能なども、実は女性が参加していた時期があったりもする。ただ、その当時にはいろいろと都合の悪いこと、『風紀の乱れ』等の弊害があったことから禁じられたにすぎない。決して<高尚>な理由などではなく、ただその場しのぎの帳尻合わせでしかなかったりもしたんです。
なのにそれをありがたがるとか、おかしいとは思いませんか?
とは言え、<芸能>などについては生死に関わるようなことではないので、古い価値観を捨てられない人達についても蔑ろにすることも、『正しい』とは言い難い。なので、新しい形の芸能が立ち上げられたりもしました。二十一世紀中頃に新たに立ち上げられた<歌舞供者>は、女性は決して演者になれないとされる<歌舞伎>の伝統を守りつつ歌舞伎の道を目指す女性達の受け皿として発足、最初は『下品』『低俗』『性の商品化だ』などと揶揄されつつも、三十八世紀になっても存続し、すでに立派な<伝統芸能>となっているそうです。
逆に、『女性しか参加できない』とされていた<歌劇団>についても、それを目指す男性のための受け皿として<歌劇團>が発足。こちらもやはり<伝統芸能>となっています。
それぞれ、歌舞伎や歌劇を愛好していた人達の一部にとっては実に目障りで不快なものだったそうですが、その一方で、<歌舞供者>や<歌劇團>を立ち上げた側も多くの誹謗中傷や悪罵を曝されてきたと。
<目障りで不快という痛み>
<誹謗中傷や悪罵に曝される痛み>
というものを経て、どちらも成立したんです。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
ブラック・スワン ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~
碧
ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)
精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~
舞
ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。
異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。
夢は優しい国づくり。
『くに、つくりますか?』
『あめのぬぼこ、ぐるぐる』
『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』
いや、それはもう過ぎてますから。
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
覇者となった少年 ~ありがちな異世界のありがちなお話~
中村月彦
ファンタジー
よくある剣と魔法の異世界でのお話……
雷鳴轟く嵐の日、一人の赤子が老人によって救われた。
その老人と古代龍を親代わりに成長した子供は、
やがて人外の能力を持つに至った。
父と慕う老人の死後、世界を初めて感じたその子供は、
運命の人と出会い、生涯の友と出会う。
予言にいう「覇者」となり、
世界に安寧をもたらしたその子の人生は……。
転生要素は後半からです。
あまり詳細にこだわらず軽く書いてみました。
------------------
最初に……。
とりあえず考えてみたのは、ありがちな異世界での王道的なお話でした。
まぁ出尽くしているだろうけど一度書いてみたいなと思い気楽に書き始めました。
作者はタイトルも決めないまま一気に書き続け、気がつけば完結させておりました。
汗顔の至りであります。
ですが、折角書いたので公開してみることに致しました。
全108話、約31万字くらいです。
ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~
月見酒
ファンタジー
高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。
目が覚め、目の前に立つ王女が泣きながら頼み込んできた。
「どうか、この世界を救ってください、勇者様!」
突然のことに混乱するなか、正義感の強い和也の幼馴染4人は勇者として魔王を倒すことに。
和也も言い返せないまま、勇者として頑張ることに。
訓練でゴブリン討伐していた勇者たちだったがアクシデントが起き幼馴染をかばった和也は命を落としてしまう。
「俺の人生も……これで終わり……か。せめて……エルフとダークエルフに会ってみたかったな……」
だが気がつけば、和也は転生していた。元いた世界で大人気だったゲームのアバターの姿で!?
================================================
一巻発売中です。
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる