獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

一時的な気休めだったとしても

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たとえ一時的な気休めだったとしても、レギラとボゼルスの料理は、ラレアトを確かに癒してくれました。

「コミン、ナクテモ、ヘイキ…♡」

ラレアトが笑顔でそう言うんです。久しぶりの彼女の笑顔でした。

「そうだね。美味しいものは他にもあるよね♡」

私も自然と笑顔になります。そんな私達の様子を見て、レギラとボゼルスも、ホッとした様子でした。彼らも私達を気遣ってくれてたんです。

結局、そういうことですよね。こうやって誰かが気遣ってくれたら嬉しいし、心の支えにもなる場合があるんです。

怒鳴ったり声を荒げたりという人は、要するに自分の思い通りにしようとしてそうならないからただ感情的になっているだけですし。

『お前のためを想って』

なんていうのも、所詮は、

『相手のためを想ってるつもりの自分に酔っている』

だけですし。

その人のことを本当に想っているのなら、その人に適したやり方を提示しなければ意味がありません。それを『面倒だ!』とおっしゃるのなら、やっぱり『相手のため』じゃなく、『自分が楽をしたい』だけじゃないですか。

私はそれでは駄目だと思うから、丁寧に対処することを心掛けているんです。

ラレアトが大切だから、彼女を受け止めなくちゃと思うんです。

そして人間は、獣人も含めてですけど、完璧にはなれません。ラレアトだって、本人が望んでも完璧にはなれないでしょう。その事実と向き合っています。

しかしそれは同時に、『自分の思い通りになってほしい』『楽をしたい』と考えてしまってつい感情的になってしまう人間のことを否定するものでもないんです。そう思ってしまうこと自体が<人間の弱さ>であり、人間そのものでもあるんですから。

そのどちらにも、それぞれ適切な対応が求められている。

ラレアトの望みを認めようとしない兎人とじんおさやラレアトの両親をはじめとした、因習に拘る者達がそうであり、そちらについては、少佐が対処してくれているんです。どちらかだけに肩入れすれば問題が解決するわけじゃない。

人間は、過去の事例から学んで、気付いてきた。それにより、少しずつ、少しずつ、前へと進んできた。

そんな先人達の歩みを、私達も実践する。

ラレアトも、おさ達も見捨てない。双方が折り合える点を探し続ける。

別に、生物の成り立ちの時点でまったく相容れない<異生物>というわけじゃないんです。痛みは伴うかもしれないけれど、折り合える点は必ずどこかに存在します。

『痛みを伴う』

というのが、<肝>ですが。

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