獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
285 / 404
第三部

最初から好きだった

しおりを挟む
『ラレアトと出逢った時は、すごく怖がらせちゃってたね。改めてごめん』

初めて出会った時に怖がらせてしまったことを詫びる私に、彼女は、

「ウウン! ビアンカ、コワクナカッタ! ワタシ、サイショカラ、ビアンカノコト、スキダッタ!」

ラレアトが突然、顔を上げて身を乗り出すようにして言いました。真剣な表情で。

『最初から好きだった』

その記憶が果たして本当なのかどうかは、正直なところ、分かりません。幼い頃のことだったから、ラレアト自身、記憶がすり替わってしまっている可能性があります。私への想いがそれだけ強いということになるようにと。

これ自体、地球人にも実はよく見られることですから、それは大きな問題ではありません。捏造した記憶で他人に害を加えようとしているわけでもありませんし。

「ありがとう。ラレアト」

私も、自然と笑顔になります。

彼女は少佐じゃない。だから少佐と同じようには愛せない。でも、男女の関係の間にあるものだけが<愛>じゃないはずです。自分以外の存在を、ただそこに存在するものとして認めることこそが<愛>と呼ばれるものだと思うんです。だから、少佐への愛も、ラレアトへの愛も、形は違うけれどどちらも私にとっては本心なんです。

私が、山猫人ねこじんのようなメンタリティを持っていたら、もしかすると少佐と同じように愛せたんでしょうか……?

分かりません。私は山猫人ねこじんではありませんから。でも、<愛>というものが、

『他者の存在そのものを認める』

ことであるなら、

『自分とは違う』

ということも認めないとおかしいはずなんです。『自分と他者は違う』のは、厳然たる事実なんですから。

これは、親子の間でも同じ。『子を愛している』と言うのなら、親は、我が子が自分とは別の存在であることを認めなければおかしいはずなんです。自分の一方的な想いを<愛>と称して押し付けるのは、ただの<欲望>です。<エゴ>でしかありません。

私は、少佐と出逢い、様々な経験を積んだことで、ようやく納得できる<答>を得ました。

だから、少佐を愛しながらも、ラレアトを愛することができる。

さりとて、ラレアトが私と同じ<答>に辿り着けるかは、分かりません。私が得た答を彼女に押し付けるのは<愛>ではありませんしね。私は彼女を受け止めるだけです。そんな私の姿から彼女が何かを学んでくれるかどうかは、彼女自身の問題。

自分と同じ考えを持つことを相手に強要するのは、単なる<洗脳>なんです。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

処理中です...