獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

現実ではまず起こりえないことを楽しむ

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フィクションによく見られる、

『周囲があれこれ動いてドタバタしているうちに結果的に解決した』

というのは、典型的な<ご都合主義>というものでしょう。でも、フィクションというものは、

<普通は上手くいかないことが上手くいくことによって得られるカタルシスを楽しむもの>

なのですから、<実現可能性>や<合理性>を問うのは野暮というもののはずです。合理的に意味のある対策を重ねて結果を得るというのであれば、現実を見ていればそれでいいはずなんです。フィクションを楽しむというのは、

『現実ではまず起こりえないことを楽しむ』

ということなのでしょうから。

さりとて、今、私達がするべきことは、<現実にはまず起こりえない奇跡>を期待するのではなく、地道で実効性のある対処を確実に行うことのはずなんです。

そのために、少佐も、連日、兎人とじんおさの下を訪れて、ラレアトの行いに、

<今後の試金石としての有用性>

があることを説き、理解を求めてくれています。おさも、少佐の話であれば耳を傾けてくれます。受け入れてくれるかどうかはまた別の話でも、話さえ聞いてもらえないというわけではないんです。これは、ここまで地道に交流を重ねてきた少佐だからこそのものなんです。

どんなことでも、一朝一夕では良い結果には至らないでしょう。表には出てこない、フィクションとして捉えれば実に退屈で華のない淡々とした時間が過ぎるだけのそれは、確実にカットされる部分であるのは私にも分かります。

けれど、現実においてはそういう部分こそが大事なんです。それを、私達は、ラレアト達に実際に示さないといけない。

『他者と折り合い共に暮らしていくということは、こういうことの繰り返しなんだ』

というのをやってみせないといけないんです。

それを怠ける大人は信頼されません。フィクションだけでは人間は育ちません。

「そう言えば、ラレアトと出逢った時は、すごく怖がらせちゃってたね。改めてごめん」

私は、彼女と出逢った時のことを思い出して、謝りました。

それというのも、彼女と出逢った時には私はまだここでの暮らしに慣れてなくて、どんな危険があるのか把握できていなくて、常に緊張していた状態だったんです。だからきっと、表情も険しかった。

そしてラレアトは、

猪人ししじんのところにいる<ユキ>の仲間がやってきて、何かしている』

と大人達が話しているのを聞いて、興味本位で様子を見に来たそうでした。私達が、猪人ししじん達の協力の下、のちのよろずやになる家を建てている時に、森の中から様子を窺っていたのがラレアトなのでした。

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