獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

他人に迷惑を掛けずに

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「人生って本当にままならないよね……」

「うん……」

ラレアトの件もそうですし、私や少佐や伍長が透明な体をもってこの惑星に生まれついたのもそうですし、オリジナルの私と少佐の関係もそうですし、少佐が家の都合で人生を決められてしまっていたのもそうですし、本当にままならなくて苦しいことばかりです。

でも、それでも、幸せを感じることもあるんです。私も、今の自分に生まれたからこそ、少佐との関係が進展しました。少佐も、<家>という足枷から解放されました。決して悪いことばかりでもない。

そして、他人に迷惑を掛けずに生きられる人もいない。

『生きているだけで他人を不快にし、迷惑を掛ける』

人だっているでしょう。他人を不快にさせる言動をやめられなくて迷惑を掛ける人だっているじゃないですか。『他人に迷惑を掛けるな!』と言うのなら、パワハラやセクハラとかで迷惑を掛けるのもダメだってことですよね? それとも、

『他人が迷惑を掛けるのは許されないが、自分が他人に迷惑を掛けるのは許されるべき』

とでも言うんですか? 

ラレアトを見守るためにフロイを一晩中派遣していたことを<迷惑>だと言う人もいるでしょう。でも、でも、フロイは快く引き受けてくれたんです。彼が断わったら、私が代わりに見守っていました。ただ、フロイの方が適任だったから、彼にお願いしただけです。

彼女のことを何とも思ってなくてそんな面倒なことはしたくないと思ってる相手に無理にやらせたわけじゃありません。

『他人のためにここまでやるのがいるとか、信じられない』

のかもしれませんが、それはそう考える人の周りにはそこまでしたいと思ってくれる人がいないだけで、周りの人に『力になりたい』と思わせることができない人の問題であって、決してそれが世界のすべてではありません。

私達にとってラレアトはそうするだけの価値がある相手なんです。どこの誰とも分からない上に他人を嘲り見下し蔑むだけのような卑怯者に対しては、そこまでしたいとも確かに思えませんが。

いずれにせよ、ラレアトが迷惑を掛けるくらいのことは、もう覚悟の上ですから。ラレアトにであれば、迷惑を掛けられたってかまいません。

私自身、これまでの人生で、自分でも気付かないうちにたくさんの人に迷惑を掛けてきたでしょう。その事実を認めればこそ、ラレアトに迷惑を掛けられるくらい、どうってこともないんです。

『迷惑を掛けられたくない』

と思ってる人は、自分を省みることもできないんでしょうね。

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