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第三部
完全に理解し合えるというゴール
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「ラレアト、おはよう」
今日も祭の会場を見回るために訪れた私は、先に来ていた彼女に挨拶をしました。いつもと変わらずに、穏やかに。すると彼女も、
「オハヨウ……」
と応えてくれました。少し困ったような笑顔でしたけど。そして私は、そんな彼女に、
「ありがとう」
ただ一言、付け加えました。その途端に、彼女はポロポロと涙をこぼし始めたんです。その小さな体の中でいろんな感情が溢れてぐちゃぐちゃに渦巻いてるのが見えるようでした。
私がそっと体に手を回すと、ラレアトは、私の胸に顔をうずめて声を殺して泣きました。
たぶん、彼女自身、どうしていいのか分からなかったんでしょう。自分の感情とどう向き合えばいいのか分からずに、パニックになってしまったんだと思います。
自分の思い通りにならないこの世への憤り。
無理解な成体達への不満。
未熟で非力な自分自身へのやるせなさ。
そういうのが混ざってしまって、絡まってしまって、どうしていいのか分からない。
そんな感じでしょうか。
だけど私は、ラレアトじゃないから、<彼女の本当の気持ち>は分かりません。ここで、
『気持ちは分かるよ』
なんて言ったって、それは間違いなく嘘です。勝手に彼女の心中を想像しているだけでしかない。『気持ちは分かるよ』とか口にしてそれで違ってたら、逆に不信感が膨らんでしまうだけでしょう。
でも、同時に、私は彼女を受け止めたい。彼女の本当の気持ちは理解できなくても、
<ラレアトを受け止めたいという私の気持ち>
は、嘘じゃない。
だったら私は、私の気持ちを態度で示すだけです。それが彼女にどう受け止められるとしても。
もしここでラレアトが、
『ビアンカなんてキライ!』
と癇癪を起こしたって、構いません。
『どうして私の気持ちを分かってくれないの?』
とか言いません。だって私自身が、彼女の気持ちを本当には理解できていないんですから。私の気持ちだって、ラレアトが完全に理解することはないでしょうから。
私達はこうやって、お互いの気持ちを表に出すことで、少しずつ、少しずつ、相手を理解していくしかないんです。決して、
<完全に理解し合えるというゴール>
には、辿り着けないでしょう。でも、それでいい。それだからこそ、お互いに存在する意味があるんです。誰かのことを完全に完璧に理解できて再現できてしまうならその人は別に要らなくなってしまう。
それでは駄目なんです。
完全には理解できないからこそ、お互いが必要なんです。
今日も祭の会場を見回るために訪れた私は、先に来ていた彼女に挨拶をしました。いつもと変わらずに、穏やかに。すると彼女も、
「オハヨウ……」
と応えてくれました。少し困ったような笑顔でしたけど。そして私は、そんな彼女に、
「ありがとう」
ただ一言、付け加えました。その途端に、彼女はポロポロと涙をこぼし始めたんです。その小さな体の中でいろんな感情が溢れてぐちゃぐちゃに渦巻いてるのが見えるようでした。
私がそっと体に手を回すと、ラレアトは、私の胸に顔をうずめて声を殺して泣きました。
たぶん、彼女自身、どうしていいのか分からなかったんでしょう。自分の感情とどう向き合えばいいのか分からずに、パニックになってしまったんだと思います。
自分の思い通りにならないこの世への憤り。
無理解な成体達への不満。
未熟で非力な自分自身へのやるせなさ。
そういうのが混ざってしまって、絡まってしまって、どうしていいのか分からない。
そんな感じでしょうか。
だけど私は、ラレアトじゃないから、<彼女の本当の気持ち>は分かりません。ここで、
『気持ちは分かるよ』
なんて言ったって、それは間違いなく嘘です。勝手に彼女の心中を想像しているだけでしかない。『気持ちは分かるよ』とか口にしてそれで違ってたら、逆に不信感が膨らんでしまうだけでしょう。
でも、同時に、私は彼女を受け止めたい。彼女の本当の気持ちは理解できなくても、
<ラレアトを受け止めたいという私の気持ち>
は、嘘じゃない。
だったら私は、私の気持ちを態度で示すだけです。それが彼女にどう受け止められるとしても。
もしここでラレアトが、
『ビアンカなんてキライ!』
と癇癪を起こしたって、構いません。
『どうして私の気持ちを分かってくれないの?』
とか言いません。だって私自身が、彼女の気持ちを本当には理解できていないんですから。私の気持ちだって、ラレアトが完全に理解することはないでしょうから。
私達はこうやって、お互いの気持ちを表に出すことで、少しずつ、少しずつ、相手を理解していくしかないんです。決して、
<完全に理解し合えるというゴール>
には、辿り着けないでしょう。でも、それでいい。それだからこそ、お互いに存在する意味があるんです。誰かのことを完全に完璧に理解できて再現できてしまうならその人は別に要らなくなってしまう。
それでは駄目なんです。
完全には理解できないからこそ、お互いが必要なんです。
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