獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

フロイの報告

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「フロイ、どうだった…?」

挨拶もそこそこに、私は彼に問い掛けました。

「ダイジョウブ、ダッタ。ラレアト、ゲンキ」

フロイのその<報告>に私はホッとなり、少佐は私の肩を抱いてくれました。

そう。私は昨夜、フロイにラレアトの身守りをお願いしたんです。<仕事>として。

もちろん、通常の仕事ではないですけど、特別なそれですけど、フロイは快く受けてくれました。

「ビアンカ、ノ、タノミ、ナラ」

と。そして彼は、朝、ラレアトが自分の家から出てくるところまでを確認、それをもって仕事は終了、こうして報告のために帰還したわけです。

ちなみに、兎人とじんは基本的に梟人きょうじんのことも苦手としてしますので、怖がらせないように森に身を隠した状態で見守りを行ってもらいました。

「今回は特別な仕事だったからね。好きなだけ食べて」

報酬は、

<店の商品食べ放題>

です。

「ウン、アリガトウ」

フロイはそう言いますけど、『ありがとう』はこっちのセリフだよ。ラレアトに悟られず一晩中見守りを続けるというのは、私では上手くできなかったかもしれない。

もちろん、元とはいえ軍人だったからストーキングの技術もそれなりに持ってますけど、やっぱり野生に近い梟人きょうじんの隠密性には敵いません。一時的に隠密行動をとる私達と、日常的に生きるためにそれを行う者達とでは、経験の差が違い過ぎますから。加えて、梟人きょうじんの視力および暗視能力は、地球人の比じゃない。暗視スコープさえ持たない私では、森の中から確実にラレアトを見分けることはできません。

加えて、ラレアトに悟られては、彼女を余計に追い詰める可能性もありましたし。

地球人の場合、こういう時、

『他人に迷惑を掛けるな!』

的なことを言う人もいます。ですが、<共助>は地球人という非力な生物が生き延びるための最大の武器であり戦略なんです。それがなければ地球人など、とっくの昔に絶滅していたでしょう。

ましてや、誰にもまったく迷惑を掛けずに生きられる地球人などいません。他人が整備した環境の中で生きている時点で他人を頼り当てにして生きてるんです。それを言うなら、裸で自然の中に放り出されて、他人が見付け磨いてきた技術すら使わずに生き延びてみせてもらいたいものです。

それに、私達はラレアトを<仲間>だと思っています。フロイも、ラレアトが私に懐き私も彼女を大切に想っていることを理解して、それを守りたいと思ってくれています。他人からそう思ってもらえないことでやっかむような人がいくら口出ししてこようが、関係ないんです。

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