獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

風習を頑なに守って

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そう、地球人は、自らルールを決め、それなのに自ら勝手な解釈を加えてそのルールを破る生き物でした。

信号を守らない。制限速度を守らない。駐停車禁止を守らない。

永遠の愛を口にしつつ不貞を働く。

しかも、自身の行為を、身勝手な言い訳で正当化しようとする。実に愚かしい振る舞いです。

でも、それ自体が<地球人という生き物>の習性なんです。

そんな私達が、集落の掟を破ろうとするラレアトを責められるはずもありませんし、加えて、兎人とじんおさ達が、実は根拠のない迷信を信じて掟に拘るとしても、それを責める資格もないでしょう。

地球人も全く同じ道を歩んできたのですから。

<伝統>や<慣習>や<しきたり>という言葉で取り繕って、何の科学的根拠もない風習を頑なに守ってきたり……いえ、私達が地球人の社会で生きていた頃にもそれは確かに残っていましたし。

だから私は、ラレアトがどういう結論を出したとしても、それを受け止めるだけです。

すると彼女は、

「カエル……」

そう言って立ち上がりました。そして、私の方を振り向いて、

「シンパイシテクレテ、アリガトウ」

笑顔を見せたんです。

と、その時、

「ビアンカ」

私の名を呼ぶ声。それも、上から。

ハッと見上げると、夜空に黒い影。でも、私はすぐにその正体を察することができました。

「フロイ…!」

そう、フロイでした。彼が音もなく空から舞い降りてきたんです。さすがは梟人きょうじん

「ビアンカ。トーイ、カラ、デンゴン。『ヒツヨウナラボクモムカウ』ダッテ」

メイミィとトームが少佐に私の伝言を伝えてくれて、少佐がフロイを伝令に寄越してくれたんです。

「そっか。わざわざありがとう」

私がフロイにそう声を掛ける脇で、

「バイバイ……」

ラレアトが手を振りながら集落に戻っていきました。

それを見届けた私は、

「ごめん、フロイ。お願いがあるんだけど……」

改めてフロイにそう話し掛けました。



そうして私はよろずやに帰り、少佐に報告。

「そうか。彼女もいろいろ葛藤してるんだね」

「ま、当然だろうな。もっとも俺だったら、村の連中が何を言ってて自分のしたいようにするけどよ」

少佐は真面目に答えてくれましたけど、伍長は相変わらずです。

「ラレアトは伍長じゃありませんから何の参考にもなりません」

私はきっぱりとそう告げます。

ただ、この時、私達は揃って同じことを懸念していたんです。

店では、クレアがお客の対応をしてくれていました。鼠人そじんのようでした。鼠人そじんは体が小さく声が高いので、分かりやすいんです。

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