獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

その事実をどう捉えるか?

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『ここは、私に任せてください』

とは言ったものの、本当はラレアトの集落の問題なので、

『ビアンカには関係ない!』

と言われたら引き下がるしかありませんでした。でも、任せてもらえたことで、私は、ラレアトと一緒に集落の外れで二人で倒木に腰かけます。

「帰ろうかどうか迷ってたんだ……?」

私の問い掛けに、

「ウン……」

ラレアトは静かにうなずきます。申し訳なさそうに。

彼女も、自分のしていることが決して褒められたことでないのは分かっているんです。だけど、抑えきれなかった。いえ、厳密には、今日のところは思いとどまってくれたんですが。こうやって帰ってきてくれたんですから。

なら、今日のところは、思いとどまってくれたことを認めましょう。

そんな彼女に私は言います。

「ラレアト。私は、あなたのことが好きだよ。もちろんこれは、『パートナーとして好き』という意味じゃないけど、あなたが元気で笑顔でいてくれるのが一番嬉しい。ただ、この世というのは、なんでも自分の思うとおりにいくわけじゃないんだ。あなたも知ってる通り、私と少佐と伍長は、元の仲間がいたところから、あの透明なヤツを通してここにきてしまったんだ。だから私にとっての<同じ集落の仲間>は、少佐と伍長だけなんだよ。

だけど、私はここにきて、ラレアトやメイミィやノーラやみんなと出逢えたことを嬉しく思ってる。だから私は今、幸せだよ。それと同じで、ちょっとくらい回り道をすることになったって、自分の思い通りにならなくたって、結果的に幸せを掴むことはできるんだ。

だからさ、ラレアト。今はみんなに認めてもらえるように努力しよう? 少し時間がかかっても、ちゃんとみんなに認めてもらってからの方がすっきりするじゃん。もし、今回、認めてもらえなくたってさ。まだ次の機会はあるよ。大丈夫。私はいつまでも待ってるよ」

ゆっくりと、ラレアトに聞き取れるように、理解できるように、丁寧にそう話し掛けました。ラレアトも、私の言葉に耳を傾けてくれました。

けれど、ラレアトは、

「ダケド…ワタシ……モウ、ビアンカ、ト、ハナレタクナイ……」

絞り出すように、苦し気に、そう口にしました。

ラレアトの言うとおり、コミンを食べなくても支障がないのなら、皆と一緒に別の地に移り住む必要はないわけで、正直、ラレアトの方に道理があるでしょう。けれど、もしコミンを断つことで何らかのマイナスの影響が出るとするなら、おさや両親の言うことに道理があります。加えて、不文律とはいえ集落の掟であるなら、掟を蔑ろにしていては秩序が守れなくなるかもしれない。

もっとも、地球人は、なんだかんだと自分に都合よく物事を解釈して法律やルールを破る者が多かったですけどね。信号無視をするとか、喫煙のルールを守らないとか。

『その事実をどう捉えるか?』

でしょうね。

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