獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

正々堂々戦って

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予定されていた祭の準備を終えて以降も、私はラレアトを伴って会場の見回りをしました。

獣人達が、

<祭の準備を終えた会場>

そのものを観光施設のように興味深そうに見て回るからです。で、些細なことでケンカをしたり、子供が屋台に登ろうとしたりというトラブルが起きます。

「ヤルカ!?」

「オオッ!?」

なぜか同族相手だと妙に血の気が多くなる傾向があるらしい山羊人やぎじんの若い雄同士が、声を荒げて向かい合っていました。どうやら、

『どっちのパートナーがより優れているか?』

で言い合いになったようです。つまり、

<女房自慢>

がエスカレートしたと。

「まあまあ、落ち着いて」

私が仲裁に入ると、

「オレ、ノ、ツマ、ウツクシイ!!」

「オレ、ノ、ツマ、メシ、ウマイ!!」

一斉にそう主張してきて、

「ドッチ、ノ、ツマ、イイ!?」

私に詰め寄ってきたんです。

って、しるかーっ!! ただの<惚気>じゃねーかっ!!

とは思うもののそれは口には出さず、

「どっちのパートナーも、そんなに愛されてるってことは、それだけ素晴らしいってことだよね? そんな相手を見付けられたのは、素敵なことだと思う。どうしてその<素敵なこと>で争わないといけないの?」

と、私は思うんですけど、二人は納得せず、

「じゃあ、おさに<角相撲>の許可をもらうまで待ってて」

そう言って、たまたま野次馬の中にいた山羊人やぎじんの青年におさのところに行ってもらって、私はラレアトと共に二人が延々と<自慢話><惚気話>をするのを聞いていました。

『地獄か? ここは……』

みたいに感じつつ。

ラレアトは私に縋り付いて、困った顔を向けてきます。

すると、別のところで、

「テメエ!」

「ヤルカ!?」

と怒鳴り声が。辟易しながら視線を向けると、そちらは猪人ししじん同士だったので、もう、放置します。猪人ししじんはそういう個人の衝突については当人同士で勝負をつけるのが<習わし>で、山羊人やぎじんと違って集落としては一切関知しません。なので放っておくしかないんです。それでもしどちらかが死んでも、

『正々堂々戦って死んだ』

のであれば、生き残った方もお咎めなしという。

ただこの時、卑怯な手段で相手を死なせたとなると、集落を追放されることもあると。

もっとも、猪人ししじんはそれこそ<正々堂々とした勝負>にこそ拘る種族なので、そんな理由で追放された者など、今いる者達が実際に覚えている範囲ではないそうですが。口伝により、ずっと昔に二人ばかりそういうことがあったらしいというのが伝わってるだけだそうです。

やはり、地球人とはメンタルがまったく違いますね。

なので地球人の社会の制度など、あてはめようとするのがそもそも無理なんです。

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