獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

受け皿

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とは言え、ラレアトを家出させないように監禁しておくわけにもいきません。彼女がもし強引な手段に出た時には、それをフォローする必要はあるでしょう。

獣人達の間には、明確な<死刑制度>のようなものは、今のところありません。ただ、集落の<掟>のようなものはそれぞれあり、破れば、トームのように追放されることはあります。それは、このインフラも決して十分でない世界で<共助>を得られなくなるという意味ですから、トームを受け入れた私達のように受けれてくれる先がなければ、実質的には死刑にも等しい厳しい<罰>でしょう。

私達地球人は死刑制度の廃止には成功しましたが、だからと言って獣人達に対しても、

『そんな野蛮な罰はやめろ!』

と押し付けることはできません。なぜなら、地球人の社会とは、社会の構造もインフラもリソースも何もかもが違うのですから。今の地球人の社会の制度をそのまま当てはめるなんてことができるはずもないんです。

でも、だからこそ、

<この獣人達の社会にとっては異物>

である私達が、<受け皿>として機能することはできるでしょう。トームの件でもそうでしたが、

『トーイ、タチ、ワレワレ、ト、チガウ。カッテ、ニ、スレバ、イイ』

と、山羊人やぎじんおさからは言われていますから。

突き放すような言い方ではありますけど、おさにはおさの立場がありますからね。それは明確にしておかなくちゃいけないでしょう。だからそれでいいんです。少佐もむしろそれを望んでる。

互いの立場を守りつつ、折り合いを付けられる点を見出す、いえ、言い方は悪いですが、

『でっちあげる』

というのも、<生きる上での知恵>なんじゃないでしょうか。四角四面な綺麗事だけじゃ、この世は成立しません。

メイミィの件もそうでしたし、ラレアトの件も、それぞれが『仕方ない』と思える落としどころを探ることになるでしょうね。

物語的には、ラレアトを<主人公>として、彼女の意見を認めようとしない兎人とじんの集落の人々を<かたき役>として打ち負かした方がきっとカタルシスを得られるんでしょう。でも、世の中というのはそんな単純なものじゃない。

『わるものをやっつける』

で解決するとは限らないんです。スカッとしなくてもモヤモヤが残っても、<折り合い>が付けばそれに越したことはないんです。

ラレアトの件も、すっきり解決とはいかないでしょう。それはもう覚悟の上です。

もし彼女が家出をして、結果、集落を追放されるようなことがあっても、私達が受け止めます。

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