獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

向き不向き

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『すぐに分かりやすい結果が出ることばかりじゃないんだ。時間をかけて地道にやっていくことも必要なんだよ』

私の言葉に、ラレアトはただ黙っていました。でも、彼女も分かっているはずなんです。彼女はとても利口ですから。メイミィよりは他人に教えるのは苦手かもしれない。けれどだからと言って彼女が劣っているということじゃありません。『自分が仕事をする』ことと『他人に仕事を教えること』は必ずしも一致しないんです。

あくまで、ただの<向き不向き>でしかない。ラレアトは、『他人に教えるのが得意じゃない』というだけなんです。

そして彼女は、他人の気持ちを想像するのが少し苦手なんでしょう。だから、たとえ合理的じゃない迷信や因習が根拠であってもラレアトの身を案じて敢えて苦言を呈するおさや両親の気持ちを想像することが上手くできない。

けれど、だからと言って感情的に衝突すれば行き違いが解決するわけでもないのも事実なんです。

ラレアトが<コミン>を食べなくても健康に影響はないという事実を示せたのであれば、私は彼女を支持します。よろずやを手伝ってほしいと思う。彼女はちゃんと有能なんです。いずれ商品管理に<数字>を的確に用いて確実な管理を行っていくなら、彼女の能力は大きな力になる。

そのためにも、ラレアトの集落の理解を得たいんです。それをせずに強引に事を進めれば、少なくないわだかまりが残り、関係がぎくしゃくしてしまうかもしれない。

人数が多くなればそういうわだかまりが生じることも避けようもなくなっていくんだとしても、すべての集落の獣人達を合わせても千人にも満たない今のここで衝突が当たり前になってしまったら、他の地域に住む、狼人や豹人といったまた別の獣人達との交流が本格的になっていった時に、それこそ衝突を回避できなくなってしまうかもしれない。

それでは、地球人が長く失敗を繰り返してきた二の舞になってしまう。それはもしかするか回避できないことかもしれないけれど、だからと言って努力しないのはただの怠慢であり怠惰でしょう。私は、それを良しとは思わない。

「ここ、屋台の取り付けがしっかりしてない。これだと屋台を使ってる間に倒れるかも。補強しておいてください」

「ワカリマシタ」

等々、最終チェックを行いながら、ラレアトと一緒に時間を過ごします。

「ラレアト。これからもきっと、自分の思い通りにならないことはたくさんあると思う。生きるっていうのは、元々、そういうものだと思うんだ。その中でほんの一握り、自分の想いを叶えていくのが、<幸せ>ってものじゃないのかな」

「……」

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