265 / 404
第三部
分かりやすいことばっかりで
しおりを挟む
翌日、少佐がラレアトの集落に赴いて長と話し合ってくださることになって、ラレアトは祭の会場で私と一緒に、会場の確認作業に入ります。設備の方は、一部遅れてる部分もありつつほぼ完成しているから、それがちゃんとなってるかを確認するんです。
「どうだった? みんなは納得してくれそう?」
次の確認のために移動しながら、私は尋ねます。けれど、ラレアトは言うんです。
「……ミンナ、アタマ、カタイ。キライ……」
『嫌い』と口にしてしまう彼女の気持ちも理解したいところですけど、仲間を嫌ってしまうのは、悲しいことだと思います。それに、ラレアトの集落の人達は、決して悪い人達じゃないんです。確かに古い価値観に囚われて現実を見られていない部分はあるかもしれないとしても、その中でもラレアトを思えばこその態度なんです。
古いものを一方的に否定するだけでも、軋轢は生じます。迷信や事実にそぐわない常識であっても、それを信じる人達にとっては大事なことなんですから。
そういう部分でも折り合いを付けられるように、少佐はこれまで徹底的に獣人達からの信頼を得るように努めてきたんです。それなくしては、力尽くで相手を屈服させるしかなくなってしまいます。地球人自身、それでどれだけの諍いを生み、争いを生み、不幸と悲しみと憎悪を生み出してきたか、歴史を見れば一目瞭然でしょう。
私達は同じ間違いを犯したくはないんです。過去の失敗から学び、それを回避する努力を惜しみたくない。
少佐がこれまで積み重ねてきたものを信じましょう。あまりにも地味で単調で見栄えがしないがゆえに物語では描かれない部分であっても、見栄えのする華やかな部分だけが<社会>や<世界>じゃないんです。むしろ、表に出ない注目されない地道な部分こそが、社会や世界の根底のはずなんです。
だから私も、
「ラレアト……このお祭りもさ、みんなで力を出し合って作り上げてきたんだよね。ラレアトの仲間達もだよ。ラレアトの仲間達の力もなかったら、このお祭りはたぶんこんなに順調に進まなかったと思う。そんな仲間達を『嫌い』って、それは悲しいよ。ホントに、分かりやすいことばっかりでこの準備は出来上がってるわけじゃないんだ。
ラレアトがしてくれた、他の集落から提供されたものを記録にまとめる仕事だって、表立って印象に残る仕事じゃなかったよね。でも、必要なことだったんだ。それがあったから、こんなにスムーズに準備ができた。それがなかったら、『あれが足りない、これが足りない。あれはどこに行った? これはどうしたらいい?』ってことばかりになって、あたふたしてただけなんじゃないかな。
すぐに分かりやすい結果が出ることばかりじゃないんだ。時間をかけて地道にやっていくことも必要なんだよ」
「……」
「どうだった? みんなは納得してくれそう?」
次の確認のために移動しながら、私は尋ねます。けれど、ラレアトは言うんです。
「……ミンナ、アタマ、カタイ。キライ……」
『嫌い』と口にしてしまう彼女の気持ちも理解したいところですけど、仲間を嫌ってしまうのは、悲しいことだと思います。それに、ラレアトの集落の人達は、決して悪い人達じゃないんです。確かに古い価値観に囚われて現実を見られていない部分はあるかもしれないとしても、その中でもラレアトを思えばこその態度なんです。
古いものを一方的に否定するだけでも、軋轢は生じます。迷信や事実にそぐわない常識であっても、それを信じる人達にとっては大事なことなんですから。
そういう部分でも折り合いを付けられるように、少佐はこれまで徹底的に獣人達からの信頼を得るように努めてきたんです。それなくしては、力尽くで相手を屈服させるしかなくなってしまいます。地球人自身、それでどれだけの諍いを生み、争いを生み、不幸と悲しみと憎悪を生み出してきたか、歴史を見れば一目瞭然でしょう。
私達は同じ間違いを犯したくはないんです。過去の失敗から学び、それを回避する努力を惜しみたくない。
少佐がこれまで積み重ねてきたものを信じましょう。あまりにも地味で単調で見栄えがしないがゆえに物語では描かれない部分であっても、見栄えのする華やかな部分だけが<社会>や<世界>じゃないんです。むしろ、表に出ない注目されない地道な部分こそが、社会や世界の根底のはずなんです。
だから私も、
「ラレアト……このお祭りもさ、みんなで力を出し合って作り上げてきたんだよね。ラレアトの仲間達もだよ。ラレアトの仲間達の力もなかったら、このお祭りはたぶんこんなに順調に進まなかったと思う。そんな仲間達を『嫌い』って、それは悲しいよ。ホントに、分かりやすいことばっかりでこの準備は出来上がってるわけじゃないんだ。
ラレアトがしてくれた、他の集落から提供されたものを記録にまとめる仕事だって、表立って印象に残る仕事じゃなかったよね。でも、必要なことだったんだ。それがあったから、こんなにスムーズに準備ができた。それがなかったら、『あれが足りない、これが足りない。あれはどこに行った? これはどうしたらいい?』ってことばかりになって、あたふたしてただけなんじゃないかな。
すぐに分かりやすい結果が出ることばかりじゃないんだ。時間をかけて地道にやっていくことも必要なんだよ」
「……」
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説


無能とされた双子の姉は、妹から逃げようと思う~追放はこれまでで一番素敵な贈り物
ゆうぎり
ファンタジー
私リディアーヌの不幸は双子の姉として生まれてしまった事だろう。
妹のマリアーヌは王太子の婚約者。
我が公爵家は妹を中心に回る。
何をするにも妹優先。
勿論淑女教育も勉強も魔術もだ。
そして、面倒事は全て私に回ってくる。
勉強も魔術も課題の提出は全て代わりに私が片付けた。
両親に訴えても、将来公爵家を継ぎ妹を支える立場だと聞き入れて貰えない。
気がつけば私は勉強に関してだけは、王太子妃教育も次期公爵家教育も修了していた。
そう勉強だけは……
魔術の実技に関しては無能扱い。
この魔術に頼っている国では私は何をしても無能扱いだった。
だから突然罪を着せられ国を追放された時には喜んで従った。
さあ、どこに行こうか。
※ゆるゆる設定です。
※2021.9.9 HOTランキング入りしました。ありがとうございます。

神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
転生王子はダラけたい
朝比奈 和
ファンタジー
大学生の俺、一ノ瀬陽翔(いちのせ はると)が転生したのは、小さな王国グレスハートの末っ子王子、フィル・グレスハートだった。
束縛だらけだった前世、今世では好きなペットをモフモフしながら、ダラけて自由に生きるんだ!
と思ったのだが……召喚獣に精霊に鉱石に魔獣に、この世界のことを知れば知るほどトラブル発生で悪目立ち!
ぐーたら生活したいのに、全然出来ないんだけどっ!
ダラけたいのにダラけられない、フィルの物語は始まったばかり!
※2016年11月。第1巻
2017年 4月。第2巻
2017年 9月。第3巻
2017年12月。第4巻
2018年 3月。第5巻
2018年 8月。第6巻
2018年12月。第7巻
2019年 5月。第8巻
2019年10月。第9巻
2020年 6月。第10巻
2020年12月。第11巻 出版しました。
PNもエリン改め、朝比奈 和(あさひな なごむ)となります。
投稿継続中です。よろしくお願いします!
ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。
しーぼっくす。
恋愛
救世主として異世界召喚された少女、里上愛那。
神託により【運命の恋人】の相手だという王太子に暴言を吐かれ、キレた愛那は透明人間となって逃亡する。
しかし愛那の運命の相手は別の人物だった。
カクヨムさんでも連載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる