獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

長の判断

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『コミン、ジャナイモノ、タベテ、ヘイキ、ダッタ! ワタシ、ズット、コミン、ジャナイモノ、タベテタ!』

自分がよろずやで働くことを認めようとしないおさに対し、ラレアトはそう告げました。

「コミン、タベナイ、ト、ダメ。ホント、ジャナイ! コミン、タベナクテ、モ、ヘイキ!」

ラレアトは、ずっと、自分自身でコミンを食べなくても問題ないことを確かめてきたと言うんです。言われてみれば私は、ラレアトがコミンを食べているところを見た覚えがありません。ゴヘノヘ神輿を作り始めてからこっち。

前回の集落の移動で、半日歩いて私に会いに来た経験から、彼女は自ら移動しなくて済む方法を模索していたんです。言えば反対されるのは分かっていたから、誰にも言わずに。

ラレアトは体も小さく、出会った頃はまだ<子供>でしたけど、今はもう、大人と変わらないまでに成長しています。地球人よりはずっと早く成体おとなになるんです。体が小さいのは、種族的な特徴ですし。

自分で考え、自分で試し、自分で確認してきた。素人考えの生兵法ではあるものの、場合によっては体を壊していたかもしれないものの、運良く、本当に運良く、彼女は確かに何の問題もなく健康でした。私もまったく気付かなかったくらいに、なんの問題もなかった。

これには、おさと一緒にラレアトと向き合っていた大人達もざわめきます。

「ラレアト ノ、イッテル、コト、ハ、ホントウ、ナノカ?」

「ソンナ、ハズ、ナイ。センゾ、ウソ、ツカナイ」

「ダケド、ラレアト、ゲンキ。ナゼ?」

大人達に動揺が広がるのが私の目からも分かりました。すると、おさは、

「オチツケ。ラレアト、ノ、コトバ、タシカメテ、ナイ。ホントウ、カ、ウソ、カ、ワカラナイ」

穏やかに、でも、きっぱりとそう言いました。その上で、私を見て、

「ビアンカ、ドウ、オモウ? ラレアト、ホントウ、イッテル、カ?」

問い掛けてきました。だから私は、

「私はずっとラレアトを傍で見てきました。ラレアトは嘘を言うコじゃありません。私はラレアトの言葉を信じます。私も、ラレアトがコミンを食べているところを見たことがありませんでした」

正直にそう応えたんです。

「……」

私の言葉におさは黙り込み、皆はざわめきます。そこに、

「ワタシタチ、ラレアト、ハナレタク、ナイ!」

声を上げたのは、ラレアトの母親でした。さらに、

「ラレアト、ワタシタチ、カゾク。ハナレル、ノ、ヨクナイ!」

父親も。

確かに、獣人達はそれぞれ、基本的に種族ごとに集落を築き、そこで一生を終えるのが普通です。ノーラやトームが普通じゃないんです。

ラレアトの両親の気持ちも当然のものだとは、私も思います。

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