獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

彼女にとっては経験

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いずれにせよこうしてメイミィはよろずやで働くことになりました。

ただ、いきなり朝までというのは、ゲームや動画視聴で完徹なんてことも珍しくない地球人が夜勤のアルバイトを始めるのとはわけが違うと思いますので、まずは深夜までやってもらうことにします。

フロイだけじゃなくて私も付き合って。

ただ、夜が更けてくるとたちまちぼうっとし始めて、それこそ深夜ともなると、うつらうつらと居眠りを始めてしまいました。お客がいればまだマシだったにしても、この日はそれこそ宵の口に一人来ただけで、それ以降は全くでしたから。

「もう、無理しなくていいよ」

私が声を掛けると、ハッとなって、

「ううん! 頑張る!!」

と。でも、それから数分で電池が切れるように私にもたれて眠ってしまいました。

「ごめんね、フロイ。あとはお願い」

私が抱き上げても目を覚まさないメイミィをリビングに運ぼうとフロイに声を掛けました。

「ワカッタ」

フロイも心配そうに見ながら応えてくれます。

自分から言い出してこの有様というのは、地球人ならきっと罵倒する人もいるでしょう。でも。そういう人は、自分にはすごく甘いんです。

『他人を罵るのはマナーに反しますよ』

と言われても言い訳を並べて自分を正当化しようとしますからね。

『マナーを守ってください』

と事前に告げられている場であってもです。他人には厳しいのに、自分には大変甘い。

実際にやってみないと分からない、実感できないことというのは、どこにでもあることです。そのための<試用期間>です。これでメイミィが悟ってくれるなら、意味があるでしょう。

軍でも、できそうもないことを敢えてやらせるという訓練があります。自分に何ができて何ができないかを理解させるための訓練です。できない人にやらせようとしてそれで失敗して自軍に被害が出ては意味がないんです。だからこそ、実際にやれるかどうかを試してみる。

そこで、できないことを悔やんで努力しできるようになればそれでいいし、できないままでもそれに応じた部署に配置すれば済む話です。

リビングでぐっすり眠ってしまったメイミィを見ながら、

「これも、彼女にとっては経験だからね」

少佐が穏やかに言ってくれました。すると伍長が、

「ま、いざとなりゃクレアと替わりゃいい」

クレアの頭を撫でながら言います。それに対してクレアも、

「カワリャイイ」

と、笑顔で。

確かに。クレアは基本的に昼に活動しますけど、夜でも起きていようと思えば起きていられるようです。

クレアがそれでいいと言うのなら、それもありでしょうね。

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