獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

この気持ちが成就しないなら

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『私の方の結論はそれで出てるし動かない』

今の獣人達の語彙では、私のその言い回しはちょっと難しかったかもしれませんけど、勘のいいネルラには、通じたみたいです。

「ふうん? 言ってくれる。じゃあ、好きにしたらいい。もう、どうでもいい」

もっと感情的になるかもと思ったけど、ネルラは思った以上にあっさりと引き下がりました。そして、

「バイバイ」

左手をひらひらと振って、彼女は店を出ていきました。恋愛についてはすごくオープンでネチネチしない気性の山猫人ねこじんだからこその引き際だったのかもしれません。

ただ、メイミィは、

「二度とくんな!!」

とご立腹ですが。とは言え、ネルラも一応は<お客さん>ですがらね。嫌がらせをしてくるようならそれは<お客>じゃないですけど、さっきの程度であれば、こちらとしても辛抱しないといけない気もします。だから、

「まあまあ。落ち着いて。こういうこともあるのがこの仕事だよ。それが嫌なら、無理しなくていい」

こう言っては何ですけど、客商売に就くにあたってのちょうどいい<試練>と思って、受け流すことにしました。後は、メイミィ自身がそれを受け止められるかどうかです。

すると彼女は、

「イヤだ! ここで仕事する!!」

と。その反応に、彼女はネルラよりは私の言っていたことを理解できてなかったんだろうなって感じました。

『パートナーとしては受け入れられないというだけ』

と言った部分が十分に腑に落ちてないんでしょうね。

ただ、彼女自身、私が少佐を愛していて、自分をパートナーとしては受け入れてもらえないであろうこと自体は、以前から承知しているみたいですし、それを改めて念押しする必要もないと考え、敢えてそのままにしました。

『自分の気持ちが受け入れられないなら自分はこの世に存在する意味がない』

的な思考をする人は、何なんでしょうね。何を拠り所にして自分の人生を作り上げるのかはそれぞれの自由だと思いますが、

『この気持ちが成就しないなら死ぬ!』

みたいなことを言われて相手が嬉しいと感じると思うんでしょうか? 分かりません。少なくとも私はそんなことを言って少佐の負担になりたいとは思いませんし。

言われた方も迷惑なだけだと思うんですが。

メイミィとラレアトの気持ちについては、これからまた向き合っていくことになると思いますが、それだけで自分の価値を決めてしまうようなことはしないでほしいと思います。

パートナーを見付けることだけが人生の目的じゃなんです。野生動物であればそれは重要かもしれませんが、<人間>という種はそれだけじゃないですからね。<獣人>も人間であるなら、そうなっていくでしょう。

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