236 / 404
第三部
こちらはこちらで幸せそう
しおりを挟む
こうして獣蟲を倒せたことをきっかけに、フロイは少し明るくなれたようでした。
「コンバンハ!」
出勤してきた時の様子も、以前より明るい気がします。そうして店番にも精を出してくれるんです。
でも、獣蟲の対応は、少佐と伍長とクレアがしてくれるので、フロイの出番はありませんでしたけどね。
だけど、いいんです。彼が少しでも自信を取り戻せたのなら。
こうしてフロイもさらに私達に打ち解けてくれて雰囲気がよくなって、祭りの準備も着々と進みました。
その一方で、よろずやの隣に建てた家で家族で暮らしているノーラとトームとレータの家族は、祭りには参加できないものの、こちらはこちらで幸せそうでした。
ゴヘノヘの一件の際に、長の命に背いて協力してくれて、でも、長の命に背いた咎で集落を追われたトーム。発達障害があり、<山羊人の常識>が理解できないノーラ、トームとノーラの間に生まれたレータ。
山羊人としての暮らしこそはできなくても、必ずしもそれがすべてでないことも分かります。
トームはとても真面目に<よろずやの店員>として働いてくれています。最近では、商品の加工も手伝えるようになりました。息子のレータも順調に育ち、やんちゃ盛りではありますけど、心根は優しい子です。まあ、店の商品を勝手に食べてしまうのも、ご愛嬌。今だけだと思います。
しかも、トームと親しかった山羊人の青年達も、よろずやに顔を出すついでという名目で、トーム達の様子を見に来てくれます。
そこで、
「オレ、ハ、ソロソロ、オサ、モ、ユルシテ、クレル、オモウ」
「ソウダ、トーム、ノ、オカゲ。ゴヘノヘ、タオセタ」
「オサ、ニ、タノンデ、ヤロウカ?」
トームが集落に戻れるようにと気遣ってもくれるんです。でも、トームは、敢えて首を横に振ります。
「オサ、ノ、メイレイ、ヤブッタ、オレ。ソレ、ユルス、ムリ。ヨクナイ」
トームは、自分が許されることで長の権威が揺らぐことを望んではいませんでした。
そして何より、理解しようとしてくれる者もいないわけじゃないといっても、山羊人としての常識を理解できないノーラを連れては戻れない。
トームにとっては、ノーラも一緒じゃなきゃ、意味がないんです。
その点、ここなら、誰にも気兼ねなく家族で一緒に暮らせる。それがなにより。
決まりきった生き方はできなくても、幸せは掴めるんです。そのチャンスは、必ずある。
そして、レータが大きくなって山羊人の集落に戻る気があるのなら、受け入れてもらえる約束を、少佐が長と取り付けてくれていたのでした。
「コンバンハ!」
出勤してきた時の様子も、以前より明るい気がします。そうして店番にも精を出してくれるんです。
でも、獣蟲の対応は、少佐と伍長とクレアがしてくれるので、フロイの出番はありませんでしたけどね。
だけど、いいんです。彼が少しでも自信を取り戻せたのなら。
こうしてフロイもさらに私達に打ち解けてくれて雰囲気がよくなって、祭りの準備も着々と進みました。
その一方で、よろずやの隣に建てた家で家族で暮らしているノーラとトームとレータの家族は、祭りには参加できないものの、こちらはこちらで幸せそうでした。
ゴヘノヘの一件の際に、長の命に背いて協力してくれて、でも、長の命に背いた咎で集落を追われたトーム。発達障害があり、<山羊人の常識>が理解できないノーラ、トームとノーラの間に生まれたレータ。
山羊人としての暮らしこそはできなくても、必ずしもそれがすべてでないことも分かります。
トームはとても真面目に<よろずやの店員>として働いてくれています。最近では、商品の加工も手伝えるようになりました。息子のレータも順調に育ち、やんちゃ盛りではありますけど、心根は優しい子です。まあ、店の商品を勝手に食べてしまうのも、ご愛嬌。今だけだと思います。
しかも、トームと親しかった山羊人の青年達も、よろずやに顔を出すついでという名目で、トーム達の様子を見に来てくれます。
そこで、
「オレ、ハ、ソロソロ、オサ、モ、ユルシテ、クレル、オモウ」
「ソウダ、トーム、ノ、オカゲ。ゴヘノヘ、タオセタ」
「オサ、ニ、タノンデ、ヤロウカ?」
トームが集落に戻れるようにと気遣ってもくれるんです。でも、トームは、敢えて首を横に振ります。
「オサ、ノ、メイレイ、ヤブッタ、オレ。ソレ、ユルス、ムリ。ヨクナイ」
トームは、自分が許されることで長の権威が揺らぐことを望んではいませんでした。
そして何より、理解しようとしてくれる者もいないわけじゃないといっても、山羊人としての常識を理解できないノーラを連れては戻れない。
トームにとっては、ノーラも一緒じゃなきゃ、意味がないんです。
その点、ここなら、誰にも気兼ねなく家族で一緒に暮らせる。それがなにより。
決まりきった生き方はできなくても、幸せは掴めるんです。そのチャンスは、必ずある。
そして、レータが大きくなって山羊人の集落に戻る気があるのなら、受け入れてもらえる約束を、少佐が長と取り付けてくれていたのでした。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
召喚勇者の餌として転生させられました
猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。
途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。
だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。
「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」
しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。
「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」
異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。
日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。
「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」
発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販!
日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。
便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。
※カクヨムにも掲載中です
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!
小択出新都
ファンタジー
異世界に転生して公爵家の娘に生まれてきたエトワだが、魔力をほとんどもたずに生まれてきたため、生後0ヶ月で跡継ぎ失格の烙印を押されてしまう。
跡継ぎ失格といっても、すぐに家を追い出されたりはしないし、学校にも通わせてもらえるし、15歳までに家を出ればいいから、まあ恵まれてるよね、とのんきに暮らしていたエトワ。
だけど跡継ぎ問題を解決するために、分家から同い年の少年少女たちからその候補が選ばれることになり。
彼らには試練として、エトワ(ともたされた家宝、むしろこっちがメイン)が15歳になるまでの護衛役が命ぜられることになった。
仮の主人というか、実質、案山子みたいなものとして、彼らに護衛されることになったエトワだが、一癖ある男の子たちから、素直な女の子までいろんな子がいて、困惑しつつも彼らの成長を見守ることにするのだった。
成長チートと全能神
ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。
戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!!
____________________________
質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる