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第三部
こちらはこちらで幸せそう
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こうして獣蟲を倒せたことをきっかけに、フロイは少し明るくなれたようでした。
「コンバンハ!」
出勤してきた時の様子も、以前より明るい気がします。そうして店番にも精を出してくれるんです。
でも、獣蟲の対応は、少佐と伍長とクレアがしてくれるので、フロイの出番はありませんでしたけどね。
だけど、いいんです。彼が少しでも自信を取り戻せたのなら。
こうしてフロイもさらに私達に打ち解けてくれて雰囲気がよくなって、祭りの準備も着々と進みました。
その一方で、よろずやの隣に建てた家で家族で暮らしているノーラとトームとレータの家族は、祭りには参加できないものの、こちらはこちらで幸せそうでした。
ゴヘノヘの一件の際に、長の命に背いて協力してくれて、でも、長の命に背いた咎で集落を追われたトーム。発達障害があり、<山羊人の常識>が理解できないノーラ、トームとノーラの間に生まれたレータ。
山羊人としての暮らしこそはできなくても、必ずしもそれがすべてでないことも分かります。
トームはとても真面目に<よろずやの店員>として働いてくれています。最近では、商品の加工も手伝えるようになりました。息子のレータも順調に育ち、やんちゃ盛りではありますけど、心根は優しい子です。まあ、店の商品を勝手に食べてしまうのも、ご愛嬌。今だけだと思います。
しかも、トームと親しかった山羊人の青年達も、よろずやに顔を出すついでという名目で、トーム達の様子を見に来てくれます。
そこで、
「オレ、ハ、ソロソロ、オサ、モ、ユルシテ、クレル、オモウ」
「ソウダ、トーム、ノ、オカゲ。ゴヘノヘ、タオセタ」
「オサ、ニ、タノンデ、ヤロウカ?」
トームが集落に戻れるようにと気遣ってもくれるんです。でも、トームは、敢えて首を横に振ります。
「オサ、ノ、メイレイ、ヤブッタ、オレ。ソレ、ユルス、ムリ。ヨクナイ」
トームは、自分が許されることで長の権威が揺らぐことを望んではいませんでした。
そして何より、理解しようとしてくれる者もいないわけじゃないといっても、山羊人としての常識を理解できないノーラを連れては戻れない。
トームにとっては、ノーラも一緒じゃなきゃ、意味がないんです。
その点、ここなら、誰にも気兼ねなく家族で一緒に暮らせる。それがなにより。
決まりきった生き方はできなくても、幸せは掴めるんです。そのチャンスは、必ずある。
そして、レータが大きくなって山羊人の集落に戻る気があるのなら、受け入れてもらえる約束を、少佐が長と取り付けてくれていたのでした。
「コンバンハ!」
出勤してきた時の様子も、以前より明るい気がします。そうして店番にも精を出してくれるんです。
でも、獣蟲の対応は、少佐と伍長とクレアがしてくれるので、フロイの出番はありませんでしたけどね。
だけど、いいんです。彼が少しでも自信を取り戻せたのなら。
こうしてフロイもさらに私達に打ち解けてくれて雰囲気がよくなって、祭りの準備も着々と進みました。
その一方で、よろずやの隣に建てた家で家族で暮らしているノーラとトームとレータの家族は、祭りには参加できないものの、こちらはこちらで幸せそうでした。
ゴヘノヘの一件の際に、長の命に背いて協力してくれて、でも、長の命に背いた咎で集落を追われたトーム。発達障害があり、<山羊人の常識>が理解できないノーラ、トームとノーラの間に生まれたレータ。
山羊人としての暮らしこそはできなくても、必ずしもそれがすべてでないことも分かります。
トームはとても真面目に<よろずやの店員>として働いてくれています。最近では、商品の加工も手伝えるようになりました。息子のレータも順調に育ち、やんちゃ盛りではありますけど、心根は優しい子です。まあ、店の商品を勝手に食べてしまうのも、ご愛嬌。今だけだと思います。
しかも、トームと親しかった山羊人の青年達も、よろずやに顔を出すついでという名目で、トーム達の様子を見に来てくれます。
そこで、
「オレ、ハ、ソロソロ、オサ、モ、ユルシテ、クレル、オモウ」
「ソウダ、トーム、ノ、オカゲ。ゴヘノヘ、タオセタ」
「オサ、ニ、タノンデ、ヤロウカ?」
トームが集落に戻れるようにと気遣ってもくれるんです。でも、トームは、敢えて首を横に振ります。
「オサ、ノ、メイレイ、ヤブッタ、オレ。ソレ、ユルス、ムリ。ヨクナイ」
トームは、自分が許されることで長の権威が揺らぐことを望んではいませんでした。
そして何より、理解しようとしてくれる者もいないわけじゃないといっても、山羊人としての常識を理解できないノーラを連れては戻れない。
トームにとっては、ノーラも一緒じゃなきゃ、意味がないんです。
その点、ここなら、誰にも気兼ねなく家族で一緒に暮らせる。それがなにより。
決まりきった生き方はできなくても、幸せは掴めるんです。そのチャンスは、必ずある。
そして、レータが大きくなって山羊人の集落に戻る気があるのなら、受け入れてもらえる約束を、少佐が長と取り付けてくれていたのでした。
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