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第三部
危うい勝利
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今日、二匹目の獣蟲に、伍長とクレアはご機嫌で解体しつつ<珍味>を口にしました。その際、フロイは獣蟲の腹を爪で裂いて倒したのだということが分かりました。
「すごいね、フロイ。私でも一人じゃいつだって必ず倒せるなんて自信ないのに」
私が素直な賞賛を送ると、彼は照れくさそうに、
「ウン、ガ、ヨカッタ、ダケダヨ」
頭を掻きながら言いました。
そうですね。運がよかっただけなのはあるかもしれません。獣蟲の膂力に対抗できるのは、一部の特に力自慢の猪人ぐらいのものです。梟人も決して弱くはないもののl、真っ向から力比べをすればたぶん勝てないでしょう。ひっくり返すことができて、弱点である柔らかい腹を爪で引き裂くことができたから勝てた。
それでも、
「それでも、勝ちは勝ちだ。ゴヘノヘから逃げたお前でも、獣蟲には向かっていけた。そういうことだ。勝てない相手を前にして逃げるのは恥じゃねえ。お前は何も間違っちゃいねえよ」
獣蟲の肝を切り取りちゅるりと吸いながら、伍長は言いました。戦闘狂と言っても差し支えない伍長ですが、他人にまで自分と同じことを求めたりはしない。できる者がすればいいし、できることをすればいい。伍長は、自分ができることをしているだけなんですよね。
そして、
「ユキ、ノ、イウトオリ、ダヨ。フロイ、ハ、ヨワムシ、ジャナイ」
フロイよりは流暢でも、まだやっぱりたどたどしい話し方で、クレアが言いました。
ゴヘノヘが現れた時には、まだ精神的にとても幼かったことで戦いには参加してもらわなかったクレア。彼女のように、戦わない者もいたんです。だから、フロイが戦わなかったことは決して罪じゃない。
「ウン……アリガトウ……」
伍長とクレアの言葉に、フロイは頷きました。これで彼が尊厳を取り戻してくれたなら、ありがたいことです。
ただ、その上で、伍長は、
「でもな、これだけは忘れるな。今回勝てたからって、次も勝てるとは限らねえ。今回みたいに一人で何とかしようとは考えるな! 時間さえ稼ぎゃいい。俺達がくるまで待つんだ。お前が俺達の仲間だと思うなら、これだけは守れ。無謀は勇気じゃねえ。いいな?」
フロイに釘を刺します。
『無謀は勇気じゃない』
あなたがそれを言いますか? とは正直思いますけど、伍長も、伍長なりの<基準>があって、それで行けると思った時には行って、無駄死にになると思った時には潔く引くというのはあるみたいです。
正直、私には理解できない基準ですけどね。
「すごいね、フロイ。私でも一人じゃいつだって必ず倒せるなんて自信ないのに」
私が素直な賞賛を送ると、彼は照れくさそうに、
「ウン、ガ、ヨカッタ、ダケダヨ」
頭を掻きながら言いました。
そうですね。運がよかっただけなのはあるかもしれません。獣蟲の膂力に対抗できるのは、一部の特に力自慢の猪人ぐらいのものです。梟人も決して弱くはないもののl、真っ向から力比べをすればたぶん勝てないでしょう。ひっくり返すことができて、弱点である柔らかい腹を爪で引き裂くことができたから勝てた。
それでも、
「それでも、勝ちは勝ちだ。ゴヘノヘから逃げたお前でも、獣蟲には向かっていけた。そういうことだ。勝てない相手を前にして逃げるのは恥じゃねえ。お前は何も間違っちゃいねえよ」
獣蟲の肝を切り取りちゅるりと吸いながら、伍長は言いました。戦闘狂と言っても差し支えない伍長ですが、他人にまで自分と同じことを求めたりはしない。できる者がすればいいし、できることをすればいい。伍長は、自分ができることをしているだけなんですよね。
そして、
「ユキ、ノ、イウトオリ、ダヨ。フロイ、ハ、ヨワムシ、ジャナイ」
フロイよりは流暢でも、まだやっぱりたどたどしい話し方で、クレアが言いました。
ゴヘノヘが現れた時には、まだ精神的にとても幼かったことで戦いには参加してもらわなかったクレア。彼女のように、戦わない者もいたんです。だから、フロイが戦わなかったことは決して罪じゃない。
「ウン……アリガトウ……」
伍長とクレアの言葉に、フロイは頷きました。これで彼が尊厳を取り戻してくれたなら、ありがたいことです。
ただ、その上で、伍長は、
「でもな、これだけは忘れるな。今回勝てたからって、次も勝てるとは限らねえ。今回みたいに一人で何とかしようとは考えるな! 時間さえ稼ぎゃいい。俺達がくるまで待つんだ。お前が俺達の仲間だと思うなら、これだけは守れ。無謀は勇気じゃねえ。いいな?」
フロイに釘を刺します。
『無謀は勇気じゃない』
あなたがそれを言いますか? とは正直思いますけど、伍長も、伍長なりの<基準>があって、それで行けると思った時には行って、無駄死にになると思った時には潔く引くというのはあるみたいです。
正直、私には理解できない基準ですけどね。
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