獣人のよろずやさん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
235 / 404
第三部

危うい勝利

しおりを挟む
今日、二匹目の獣蟲じゅうちゅうに、伍長とクレアはご機嫌で解体しつつ<珍味>を口にしました。その際、フロイは獣蟲じゅうちゅうの腹を爪で裂いて倒したのだということが分かりました。

「すごいね、フロイ。私でも一人じゃいつだって必ず倒せるなんて自信ないのに」

私が素直な賞賛を送ると、彼は照れくさそうに、

「ウン、ガ、ヨカッタ、ダケダヨ」

頭を掻きながら言いました。

そうですね。運がよかっただけなのはあるかもしれません。獣蟲じゅうちゅうの膂力に対抗できるのは、一部の特に力自慢の猪人ししじんぐらいのものです。梟人きょうじんも決して弱くはないもののl、真っ向から力比べをすればたぶん勝てないでしょう。ひっくり返すことができて、弱点である柔らかい腹を爪で引き裂くことができたから勝てた。

それでも、

「それでも、勝ちは勝ちだ。ゴヘノヘから逃げたお前でも、獣蟲じゅうちゅうには向かっていけた。そういうことだ。勝てない相手を前にして逃げるのは恥じゃねえ。お前は何も間違っちゃいねえよ」

獣蟲じゅうちゅうの肝を切り取りちゅるりと吸いながら、伍長は言いました。戦闘狂と言っても差し支えない伍長ですが、他人にまで自分と同じことを求めたりはしない。できる者がすればいいし、できることをすればいい。伍長は、自分ができることをしているだけなんですよね。

そして、

「ユキ、ノ、イウトオリ、ダヨ。フロイ、ハ、ヨワムシ、ジャナイ」

フロイよりは流暢でも、まだやっぱりたどたどしい話し方で、クレアが言いました。

ゴヘノヘが現れた時には、まだ精神的にとても幼かったことで戦いには参加してもらわなかったクレア。彼女のように、戦わない者もいたんです。だから、フロイが戦わなかったことは決して罪じゃない。

「ウン……アリガトウ……」

伍長とクレアの言葉に、フロイは頷きました。これで彼が尊厳を取り戻してくれたなら、ありがたいことです。

ただ、その上で、伍長は、

「でもな、これだけは忘れるな。今回勝てたからって、次も勝てるとは限らねえ。今回みたいに一人で何とかしようとは考えるな! 時間さえ稼ぎゃいい。俺達がくるまで待つんだ。お前が俺達の仲間だと思うなら、これだけは守れ。無謀は勇気じゃねえ。いいな?」

フロイに釘を刺します。

『無謀は勇気じゃない』

あなたがそれを言いますか? とは正直思いますけど、伍長も、伍長なりの<基準>があって、それで行けると思った時には行って、無駄死にになると思った時には潔く引くというのはあるみたいです。

正直、私には理解できない基準ですけどね。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!

ごめんなさい。俺の運命の恋人が超絶お怒りです。

しーぼっくす。
恋愛
救世主として異世界召喚された少女、里上愛那。 神託により【運命の恋人】の相手だという王太子に暴言を吐かれ、キレた愛那は透明人間となって逃亡する。 しかし愛那の運命の相手は別の人物だった。 カクヨムさんでも連載しています。

処理中です...