獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

時代が時代なら

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フロイの父方の祖父は、フロイの父親が生まれて間もなく、ゴヘノヘの襲撃により行方不明になったそうです。ゴヘノヘの襲撃で行方不明になるということは、つまり、『遺体も残さず』ということですね。

「ボク、ノ、オトウサン、オジイサン、ガ、コロサレタ、コト、イッパイ、ハナシタ。イッパイ。ボク、ゴヘノヘ、コワク、ナッタ」

彼の話によると、父親は、ゴヘノヘの恐ろしさを伝えようとするあまり、迫真の身振り手振りで語ったそうですけど、それが効きすぎてトラウマを植え付ける結果になった形でしょうか。

決して悪気があったわけじゃないにしても、いささかやりすぎだったと。

とは言え、当時はまだ、伍長が来てまだ間もない頃だったこともあり、獣人達の<語彙>も少なくて、言葉よりもジェスチャーにより伝えようとするのが主流だったそうです。まあ、それは今もそんなに変わってませんが、語彙が少ない分、やりすぎてしまったのかもしれません。それが、もともと臆病な性格だった彼には過剰だったと。

父親を責めることはできないですが、何事にも<ほど>というものがあるのを改めて感じます。

いずれにせよ、それもあって、フロイはゴヘノヘを前に逃げてしまった。

彼を『臆病者!』と罵ることは簡単です。でも、何に対して特に恐怖を感じるかは人それぞれのはずなんです。私がかつて所属した部隊にも、銃を持ったテロリストは平気なのに、『蜘蛛がとにかくダメ』という隊員がいました。見た目にも筋骨隆々とした、印象だけなら伍長よりもずっと強そうな男性でしたけど、待機中に部屋に紛れ込んだ大きな蜘蛛と遭遇して腰を抜かしてしまって。

私は、元々、自分が内向的で臆病な部分があったから笑う気にはなれなかったんですけど、他の隊員達は笑っていました。

それでいて、テロリストの襲撃が伝えられて出動となると、人が変わったように真っ先に部屋を飛び出して。

しかも、実際の戦闘では、仲間の窮地を救ったりもしたんです。

そんな風に、『何が怖いか?』は、そんなに大きな問題じゃないと私は思うんです。苦手なものは誰にだってあります。それを別なところで補えればいいと思うんです。

フロイは、とても誠実できちんと仕事をこなしてくれます。頭もいい。十分に<よろずや>に貢献してくれてるんです。彼のおかげで私達はずいぶんと楽になりました。それについてはまっとうな評価をしたい。

敵前逃亡は確かに重罪です。時代が時代なら、軍法会議で処刑を言い渡されることもあったかもしれない。

だけど、私達は、軍人ではなく、あくまで<民間人の協力者>だった上にそういう事態も見越して作戦を立てていたのですから、責任を問うつもりは全くないんです。

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