獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

信じて待っていて

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クレアが伍長に甘えている間にも、よろずやの方には何人かお客がありました。でも、フロイがちゃんと対応してくれてます。

そんな彼に、

「フロイ、休憩して。私が代わるから」

と声を掛けます。

「ハイ……」

フロイはやっぱり遠慮がちに返事をしました。本当は遠慮なんかまったくする必要ないんですけどね。

彼は、店から住居スペースへの上がりがまちのところに腰かけて、所在なげに俯いていました。もう何ヶ月も前のことなのに、いまだに引きずっているみたいです。

ゴヘノヘから逃げたことを。

本当に真面目ですね。だけど、真面目過ぎるというのもいろいろと大変です。いろいろと……少佐も真面目過ぎて私との関係を後回しにしてる。やれやれですよ。

だから私は、彼に、

「これでも食べて元気を出して、フロイ」

店の商品の干し肉を差し出しながら言いました。

「ア……ハイ、アリガトウ……」

少しおどおどとした感じで受け取る彼の姿が、どうにも歯痒くて。

とはいえ、こういう時、強引に、

『元気を出せ! クヨクヨすんな!!』

みたいに言うのも、実は逆効果なことが多いというのも分かっています。自分が思い悩んでいることが悪いことだと言われているような気になって、かえって自己嫌悪を深めてしまうのだそうです。

分かるような気がします。何しろ私自身、『元気を出せ! クヨクヨすんな!!』みたいな言い方をされると逆に気分が悪いですから。

『あなたに何が分かる!?』

と感じてしまうんです。テロリストの少年の一件も、ある程度落ち着くまでには時間を要しました。眠れなくなったこともありました。眠ると、私を恨めしそうな目で見詰めてくる少年の姿が夢に出てくるんです。それに飛び起きてしまう。

そんな時、少佐は、ただ私を見守り、待ってくださいました。私が自力で吹っ切って立ち直るのを信じて待っていてくださったんです。少佐がそうやって信じてくださったから、私は立ち直ることができた。

正直、完全に吹っ切れたとは言い難いものの、それにばかりに囚われることも今はありません。

とは言え、これは『私はそうだった』というだけの話。その一方で、ただただいつまでも思い悩んでいるだけでも問題が解決しないのも事実なので、適宜、気分転換も必要なのだそうですが。

しつこくならないように気を配りながらもこうやってフロイに話し掛けるのも、つまりはそういうことですね。

干し肉を齧る彼の表情に、意識を向けます。もっとも、フクロウのように羽毛に覆われた彼の表情は、地球人よりはどうしても分かりにくいですけど。

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