獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

伍長の<気持ち>

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まあそれはそれとして、伍長とクレアで獣蟲じゅうちゅうの解体を終え、後は商品として利用する部分の乾燥のために並べると、伍長は、

「んじゃ、風呂に入るか? クレア」

彼女に向かって言いました。するとクレアも、

「ウン♡」

嬉しそうに笑顔になります。

「夕食はいいんですか?」

私が問い掛けると、

「ああ、もう食ってきた」

「ワタシモ」

伍長もクレアも応えます。

「はいはい、でしょうね」

私も、まあそうだと思って訊いたんですけどね。

伍長は猪人ししじん達の集落で。クレアは、哨戒中に自分で果実を採って。それぞれ食事を済ませていたんでしょう。いつものことです。同じ家に住んでいても、伍長もクレアも自立した<個人>です。私も少佐も、彼らの保護責任者ではありません。

そんなわけで私はリビングに戻ったんですが、風呂場からは、

「ユキ♡ ユキ♡ キャハハ♡」

クレアの楽しそうな嬌声が届いてきます。決してセクシーなそれではなくて、子供が遊んでいるかのような。いえ、実際にクレアは遊んでいるんでしょう。伍長に遊んでもらっているんでしょう。

『惚れた女を抱いて』と伍長は言ってましたが、彼とクレアは決してそういう関係ではないことは、私にも分かります。クレア自身がまだ、そういう面で成長していないからでしょう。肉体的には十分にもう<成体おとな>なんですが、精神面ではそこまで至っていない。

伍長は、ガサツで礼儀知らずで粗雑でデリカシーがなくて乱暴者ですが、明らかに自分より弱い相手には攻撃的じゃないし、虐げたりもしないんです。だから、たとえクレアと一緒にお風呂に入っても、彼女が望まないことはしない。

そういう部分については、信用できる人です。はい。

だからこそ、クレアも彼に懐いているんでしょうね。自分を大切にしてくれる人だと分かってるということでしょうか。デリカシーはないですが、当のクレアがあまりその辺りを気にしてないので問題にならないし。

クレアの基になったであろう<クラレス・トリスティア>は、伍長のことなんて眼中にもなかったみたいですけど。だから余計に、

『クレアは、クラレスじゃない』

と分かるんです。

ただ、もし、このまま伍長とクレアが付き合うとしても、クレアはともかく伍長はどれだけ、

『クレアを愛しているのか?』

という部分で疑問です。クレアを抱くことはできたとしても、それがどれだけ、伍長にとって、

『クレアでないといけない』

ってことになるのか。

クレアはきっと喜ぶでしょう。でも、伍長の<気持ち>は……?

まあ、本人同士の問題なので私が気にすることじゃないんでしょうが。

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