獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

彼らの常識

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などというやり取りを、レギラとボゼルスは唖然とした様子で見ていました。元々、山羊人やぎじんの二人にしても山猫人ねこじんの感覚は理解できないものでしょうからね。

そうして、しばらく不毛なやり取りを繰り返すと、

「ニャルソ~♡」

山猫人ねこじんの雌が鼻にかかった甘い声でニャルソの名を呼びながら近付いてきて、彼は、

「はあ~い、ネルラ~♡」

やっぱり鼻にかかった甘い声で応え、それから私に向き直り、

「やれやれ、僕がこんなに愛しているのに、ビアンカは照れ屋だなあ」

ニャルソは、いかにも自意識過剰な勘違い男という印象しかない謎のキメポーズをとってそうのたまい、

「しかたない、また今度ね♡」

投げキッスを残しながら踵を返して、山猫人ねこじんの雌、ネルラの肩を抱いて、

「今夜は楽しもうか」

「嬉しい! 私、あなたの子供が欲しい♡」

とかなんとか言いながら、森の中へと去っていきました。

はあ、彼らの感性を否定するつもりはないんですが、頭が痛いです。

「ダイジョウブ?」

「大丈夫、ビアンカ?」

ラレアトとメイミィが気遣ってくれるからまだ何とかなってます。そこに、

「タイヘンダナ」

「ガンバレよ」

レギラとボゼルスも気遣ってくれました。

こうしてこの日の準備は終えて、私は途中までラレアトやメイミィやレミニィと一緒に歩き、<よろずや>に帰りました。



「オカエリ」

よろずやに着くと、今日も店番をしてくれていたトームが出迎えてくれます。その脇では、彼の息子のレータが、店の商品を勝手に食べていました。まあこの辺もまだ理解できないでしょうし、厳密には<商売>じゃない上に想定の内なので、取り敢えずは、

「レータあ、勝手に食べないでえ~♡」

と言いながら、彼の前にしゃがんで指をワキワキと動かし、

『くすぐっちゃうぞ~』

とアピールしました。するとレータは、

「ムギッ!」

って声を上げてトームの後に隠れます。こうして徐々に、

『店の商品は勝手に食べないでほしい』

というのを理解していってもらうんです。時間を掛けて。頭ごなしに叱らないのは、叱ったところで彼には何が悪いのか今の時点では理解できないことと、何より、伍長が勝手に店の商品を食べることがあるので、説得力がないからですね。

獣人達は、まだまだ、狩猟と採集が中心で、<私財>という概念もまだ十分にありません。『食料は皆で分け合う』のが彼らの常識。加えて、

『その場にあるものをその場で食べる』

こと自体が彼らにとっては当然の行為なんです。ただまあ、

『後から食べるために用意しておく』

程度のことは、ある程度成長すれば理解できるので、そのために根気強く声を掛けるということですね。

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