獣人のよろずやさん

京衛武百十

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第三部

計算通り

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そもそも、僅か数メートルの壁の向こうは、真空でほぼ温度がなくさらには途轍もない放射線が降り注ぐ宇宙空間なのに、AIで制御された機器さえ使わずにどうやって維持するつもりだったのでしょう。聞くところによると、完成するところまではAI制御の諸々の機器や機材やロボットを使って完璧に作り上げれば、後は高い技術力をもった<達人>と呼ばれる人間達で何とかできると考えていたらしいですけど、いやいや、普通に無理ですから。

大きなデブリについては監視されていて衝突しないように軍などが対処もしますが、直径十センチ以下の微小なデブリなどはさすがに把握も難しく、基本的には外装にデブリを受け止める層を設けることで防ぐんですが、それらは当然、デブリを受け止めるごとに劣化していくため、メンテナンスが必要なんです。そのメンテナンスだけでも、AIを使わない船外活動服を着ただけの人間の手で全て行うとか、狂気の沙汰です。

現在、船外活動の類は、基本、ロボットの役目なんです。人間が行うことは、まずない。当時でさえ、ほとんどがロボットの役目でした。

で、案の定、実際に運用を開始したはいいけれど問題が頻発。スペースコロニー内の環境を制御するシステムも、

<AIを搭載していないコンピュータ>

という、二十世紀後半頃のそれで制御されているから、システムはあくまで不具合を人間側に通知するだけで、二十四時間三百六十五日休むことなく人間がシステム側からの通知を監視し、対処しないといけなくて。

それこそ、

『予定されていないところに花が咲いた』

的な、すぐに問題になるようなものでないことすらその時点で人間が対処することになって、常に人員が不足。一日七時間労働のはずが、残業は毎日八時間。休暇も満足に取れず、奴隷のような、いえ、下手をすると奴隷以下の労働環境を強いられたそうです。

そしてそれは、スペースコロニーそのものをメンテナンスする技術者達も同じ。AIとロボットに任せていた作業をすべて人間が行うようにしたことで、当たり前のように過重労働を課す事態に。

これも、最初の計算では、ちゃんと一日七時間で週休二日を維持できるはずだったそうです。でも、実際にはまったく計算通りにいかない。

ロボットを使ってても計算通りにいかないのは、むしろ常識でした。だからこそ、必要とあれば追加で投入できるロボットを使うんです。ロボットは、人間のように技術を身に付けるにもアプリをインストールするだけで済む。対して人間は、それなりの日数を要する上に、個人差が大きく、全員が全員、使えるようになるわけじゃない。

彼らはどうして、自分達に都合のいいシミュレーションばかり信じるんでしょうね。

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